アメリカ睡眠医学会が発表した調査により、睡眠不足は、大量の酒やマリファナを摂取した状態と同等の影響を学業の成績に及ぼすことが明らかになった。
睡眠不足の状態で講義を受けていた学生の多くは、十分な睡眠をとっていた学生よりも低い成績をとり、なかには落第する学生もいたという。
つまり、睡眠不足が学習に及ぼす悪影響は、深酒並みに深刻になりかねないということだ。
この事実は本当に衝撃だ。
人生のどの段階においても、その大部分を占めるのは学習だ。
成功したいなら、情報を学習し保持する能力が何よりも重要になる。
学校に通っているあいだも、社会に出てからも、「何かをやり遂げる」という名のもとに睡眠を犠牲にする人は多いが、「作業をすること」と実際に効果をあげることでは大きく違う。
この違いはしっかりと覚えておく必要がある。
睡眠を削れば、作業する時間が増えるのは間違いない。
しかし、作業の質や効率性は損なわれる。
医学雑誌『ランセット』に掲載された、医師を対象にした調査を紹介しよう。
それによると、睡眠不足の医師は、十分な睡眠をとった医師に比べて業務を完了させるのに14パーセントながくかかり、ミスをする確率は20パーセント以上高かったという。
睡眠不足の状態では、同じ業務をこなすのにより多くの時間がかかるばかりか、自分のミスの後始末までする時間まで必要になる。
だが、眠い目をこすりながら何かに取り組むのをやめて、睡眠の十分な確保をいちばんに考えた時間の使い方を覚えれば、やるべきことを短い時間で効率よく終えられるようになる。
アイデアにあふれ、エネルギッシュになれる。
問題を解決するときも、脳の必要な部位をスムースに機能させられるようになる。
死んでから好きなだけ眠ればいいえ方をしていては、それが現実になる日が近づく一方だ。
それに、いまはまだ人生を楽しめているとしても、睡眠が不足すれば脳がその影響を受け、生活に多大な支障をきたすことになる。
【眠りは脳をきれいにする】
人類の歴史が記録され始めた当初から、哲学者も科学者も、睡眠には真の目的があるとしてさまざまな仮説を立ててきた。
私たちが暮らす現代社会は、昔と違って自分を取り巻く環境に注意を払わずにすむようになった。
いまは危険や捕食に対してもっとも無防傭な時代だ。
仮に睡眠が生存を厳しくさせる要因となるのであれば、進化の過程でとっくに消えていたはずだ。
だが実際はと言うと、睡眠のおかげで、私たちは信じがたいレベルの成長や進化を遂げ睡眠は進化を遂げることができた。
睡眠は阻むものではない。
進化の触媒となるものなのだ。
人間の脳ほど強固な構造は地球上に存在しない。
私たちが肉体をつくれるのも、高層ビルや自動車や宇宙船をつくれるのも、脳があるから可能になった。
テクノロジーの力を引きだしてインターネットを生みだせたのも、DNAの力を解き明かして生命の理解を深めることができたのも、脳のおかげだ。
私たちの脳は、どんな未知の状況に遭遇しても、対外的に考えることができる。
過去を分析することも、未来を予測することも、予測した未来を手にする方法を際限なく生みだすことだってできる。
また、脳内に宿る膨大な数の細胞は、身体のあらゆる機能を制御している。
その細胞一つひとつに、身体全体を使って行うことを単独でできる力がある。
栄養を摂取し、周囲と交流し、自らの分身をつくる。
それだけではない。
老廃物までつくりだす。
科学者によると、脳細胞から老廃物が排出される過程が、私たちに良質な睡眠が欠かせないことと深く関係している可能性があるという。
私たちの身体には、細胞から出た老廃物を管理するメカニズムが備わっている。
それがリンバ系だ。
代謝によって生まれた老廃物や有害物質を除去し、身体を健康に保つ役割を担う。
ただし、脳はリンバ系に含まれない。
血液脳関門によって、他の器官とは独立して制御されているのだ。
脳内に何が通過できて何が通過できないかは、この関門が決める。
脳から遠く離れたところで脳への侵入を試みる不届き者を見つけだせる細胞の門番に、脳は厳重に守られているというわけだ。
【老廃物を除去する脳のシステムは睡眠時に活性化する】
脳には老廃物を除去する独自のシステムが存在する。
リンパ系とよく似たそのシステムは、グリンパティック系と呼ばれる。
このシステムをつかさどるのは脳内にあるグリア細胞で、この細胞に敬意を払ってリンパの頭に「グ」がつけ加えられた。
脳は実にさまざまな働きをするが、その結果、大量の老廃物が生まれる。
それらはすべて排除しないといけない。
老廃物を取り除くことで、文字どおり、新たな成長や発達の余地が生まれるからだ。
死んだ細胞の除去やリサイクル、有害物質の排除、老廃物の排出は、脳が機能するうえで絶対に欠かせない。
そして、このシステムと睡眠との具体的な関係が、ロチェスター大学メデイカル・センターに属するトランスレーショナル神経医学センターの研究者らの手によって明らかにされた。
眠っているあいだ、グリンパティック系の活動は目覚めているときの10倍以上も活発になるのだ。
しかも、眠っているあいだは脳細胞が約60パーセント縮小するため、老廃物を除去する効率はさらに高まるという。
目覚めているときの脳は、学習や成長に勤しみ、脳の持ち主が活躍できるよう協力している。
ずっと動きっぱなしなので、たくさんの老廃物が絶えずたまっていくが、そのほとんどは、睡眠がもつ修復の力で除去される。
自宅のゴミを捨てるシステムがとどこおれば、家はあっというまに悲惨なことになる。
それと同じで、十分な睡眠をとらず、グリンパティック系が働かなかったら、脳内が大変なことになる。
もっと具体的なことを言うと、有害な老廃物を除去する能力が脳にないことが、アルッハイマー病を発症する根本的な原因の一つだと言われている。
【思考のパフォーマンスを最大化させるには】
ここまでの説明で、睡眠の改善を最優先事項にすべきだとおわかりいただけたと思う。
とはいえ、睡眠が大切な理由はごく一部にすぎない。
どんなときでも、睡眠には価値があるということを忘れないでほしい。
自分に必要な睡眠をしっかりとると、パフォーマンスカが向上する。
よりよい決断を下せるようになり、より健康を保てるようになる。
睡眠は、避けないといけない障害などではない。
身体が必要とする、自然な状態だ。
ホルモン機能を高め、筋肉、細胞組織、臓器を修復し、病気から身体を守り、思考を最高の状態で働かせるためには、睡眠が欠かせない。
夢の世界を避けて通ろうとしたところで、成功への近道にはならない。
睡眠を適切にとって初めて、やるべきことの量と質が高まり、これまで以上に能力が発揮できるのだ。
↓ 参考書籍
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