服装はあなたの一部だ。
表情や身振りと同じように、服装もまたその人のことをいろいろと教えてくれる。
「何を身につけるか」、それがあなたという人を物語る。
アクセサリーの組み合わせ方や、香水や石鹸の香りも、相手を知るヒントになる。
その香水は安物か、それとも高級品か?
また、香水の香りがあまりにきついと、文字通り「鼻につく」人と思われるだろう。
「この香りに注目して」と大声で叫んでいるようなものだからだ。
どれも小さなヒントだが、そこにはさまざまな情報がつまっている。
「第一印象」においては、顔やしぐさだけでなく、服装のチョイスも大きなポイントとなる。
誰かが部屋に入ってくると、たいていの人はまず相手のズボンやスカート、コート、ジャケットなどに注目するものだ。
ときには手の動きやしぐさと、服装から受ける印象とがちぐはぐな場合もあるだろう。
たとえば、上質なスーツを完璧に着こなしているのにテーブルマナーがめちゃくちゃな男性がいたとする。
それでも、この人についての一番の印象は「上質なスーツを着た人」となるはずだ。
著者は数年前、ひげを生やして髪の毛も数センチ長めにしてみたことがある。
そして、それまで着ていた黒いスーツをやめて、ジーンズ姿の衣装で舞台に上がることにした。
もっとカジュアルに、お客さんと近い印象を与えられるようにしたいと考えたからだ。
ところが、意外な結果になった。
ジーンズスタイルに変えてから、明らかに拍手の量が減ったのだ。
もしかして僕のショーに魅力がなくなったのだろうか・・・?
不安を募らせつつも、原因を確かめてみることにした。
ジーンズをやめてスーツとシャツとネクタイという以前のスタイルに戻したのである。
すると、ショーの内容はまったく変わっていないのに、観客はまた以前と変わらず熱い拍手を送ってくれるようになった。
その後のアンケートからわかったのだが、観客は僕にカジュアルなイメージを求めている一方で、スーツ姿のときのほうが「能力が高そう」と感じた人が多かったのだ。
しかもおもしろいことに、観客は、自分がそう判断した理由が服装にあるとはまったく気づいていなかった。
ただ無意識にそう感じたのである。
もう一つ別の例を挙げよう。
著者の友人がIKEAの就職面接を受けたときの話だ。
経営学部を卒業したばかりの彼は、スーツにネクタイというかっちりした服装で面接に臨んだ。
ところが、そんな立派な格好をしていたのは彼だけだった。
なんとか二次面接に進んだ彼は、今度は違う服装でいくことにした。
ジーンズにシャツ、しかもシャツの裾はズボンから出すというスタイルである。
この選択は大正解だった。
未来の上司となる面接官はこんな言葉で彼を迎えたそうだ。
「やあ、今度はきちんとした服装で来てくれたね」
この例からわかるのは、服装だけが大事なのではないということだ。
文脈、つまりその場の状況と、その状況にふさわしい服装かどうかも重要になる。
たとえばプライベートで着古した安物の服を着ているのに時計だけは高級品という人がいたら、その理由はいくつか考えられる。
もしかしたら、仕事では大変に成功しているが、家では着慣れた気楽な服装でいたいタイプなのかもしれない。
そういう理由なら別に誰に迷惑をかけるわけでもないだろう。
また、カジュアルなパーティーで一人だけスーツを着ている人がいたら、それがビジネススーツかどうかに着目しよう。
もしそうなら、その人は大事な出張から直接パーティーに駆けつけた可能性がある。
一度家に帰って着替えていては間に合わなかったのだろう。
ある服装が適切かそうでないかは、状況によって違う。
大企業の役員はオーダーメイドのスーツで芝刈りはしないし、擦り切れたジーンズで役員会に出席することもないだろう。
でもクローゼットにはそのどちらも備えていて、状況に応じて着る服を選んでいるはずだ。
僕たちは普通、意識して状況に合った服を着ようと努めている。
そして、その努力をしないときは、自分は周囲に合わせるような人間ではないとアピールしたいのだ。
毎朝クローゼットを開けたら何も考えずに一番上等な服を身につけるという人は、「周りからどう見られようと気にしませんよ」と言っているのと変わらない。
服装でもやはり「人間はコミュニケーションしないでいることはできない」からだ。
そして、服装がだらしない人を見ると、多くの人は心のどこかで、その人の印象を決めてしまう。
自分の外見に無頓着な人は、仕事や友人とのつき合いにおいても無責任に違いないと考えてしまうのだ。
アクセサリーの選び方からも、さまざまなことが読み取れる。
ネックレスやブレスレットなどを一度にたくさんつける女性は、外向的で人から見られるのが好きなタイプが多い。
逆に一点だけとても目立つものを身につけている人は、そのアイテムに視線を集めたいという意図がある。
もしかしたら、特別な機会に贈られた大切な品かもしれない。
自分へのご褒美にと自分で買った可能性もある。
年代物なら、形見の品ということもありうるだろう。
こうした細かいことは、普段から目についているかもしれないが、身体言語を読むという視点から見ることはあまりないのではないだろうか。
私たちはいろいろと考えたうえで、身につけるものを選んでいる。
単に気に入った服を選ぶというだけの話ではない。
服装のチョイスによって、周囲に向けて「語りかけて」いる。
自分がある特定のグループに属していることを、あるいは他人からどう思われようと気にしないタイプであることを伝えているのである。
服装の選択は、あなたが周囲からどう行動するかにも影響を与える。
著者もスーツのときとジーンズのときでは、感覚が全然違う。
だからこそ状況に応じてふさわしい服装を選ぶことが重要になる。
たとえば自分が優位に立って場をコントロールしたいと思ったら、周囲の人よりもいい服を着ることが大切だ。
ほかにも、服装が思考と行動に与える影響については、じつにさまざまな研究が行われている。
↓ 参考書籍
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