現代人の腸内環境は、悪化しているといわれるようで、その腸内環境を整えることで、多くの不調や病気が予防でき、若々しさも維持できることがわかってきました。
病気ではないけれど「腸を診てもらいたい」「便秘を治したい」「正しい腸ケアの方法を学んで痩せたい、美しくなりたい」という患者さんがいらっしゃいます。
腸の長さや形は1人ひとり違います。
便秘の原因もさまざまです。
腸にいいことをしているつもりなのに、便秘がなかなか改善しない、コロコロの硬い便ばかり出る、下剤を飲んでいたら便通が起きなくなった……という人は、自分に合った腸ケアをできていない可能性があります。
そこで、まず腸タイプ診断とタイプに合った対処法をご紹介します。
便秘などの不調を起こしがちな腸は、次の6タイプに分類されます。
なかには、複数のタイプを持つ混合型の人もいます。
セルフチェックをしてみましょう。
【ねじれ腸タイプ】
腸がねじれていることと、冷え症や善玉菌が少ないことが影響し、ガスが腸内に貯留している状態。
▢お腹が張って苦しいときがある。
▢お菓子が大好き。
▢外食が多い。
▢常に口に何か入ってないと寂しいと感じる。
▢食べるときと食べないときの差が激しい。
▢お肉が好き。
<おすすめ対処法>
・発酵食品をとる。
・寝起きに白湯を飲む。
・食物繊維をとる。
【落下腸タイプ】
筋力低下や骨盤のゆがみ、姿勢の悪さ、猫背などによって横行結腸の中央が下へ垂れ下がってしまった状態(落下腸は生まれつきの場合もあります)。
▢おへその下が出ている。
▢寝ても脚のむくみが取れない。
▢上半身より下半身のむくみが気になる。
▢運動するのは週に1回以下である。
▢生理不順や生理痛がある。
▢姿勢が悪い。
<おすすめ対処法>
・腹筋運動
・ストレッチ
【直腸性タイプ】
肛門付近(直腸)まで便が運ばれてきているのに、トイレを我慢したり、生活が不規則だったりすることで、便意を感じなくなっている状態(便が非常に硬くなります)。
▢トイレを我慢することが多い。
▢毎食、食物繊維のある食事をとっていない。
▢水分をあまりとらない。
▢以前は運動をしていたけど、最近はしていない。
▢食事が不規則である。
▢炭水化物をほとんど、とらないようにしている。
<おすすめ対処法>
・便意がなくても毎朝、トイレに行く習慣をつける。
【弛緩性腸タイプ(疲れやすい虚弱体質)】
刺激性下剤の使い過ぎなどで腸の働きが悪く、腸のぜん動運動が十分に機能しないタイプ。
刺激性下剤の使用を控え、腸を休ませる必要があります。
▢おへそあたりが冷えている。
▢腰やおしりの上が普段から冷たい。
▢下剤を飲んでいる。
▢冷たいモノが好き。
▢薄着のことが多い。
▢お腹の筋肉がない。
<おすすめ対処法>
・腸もみマッサージ
・ストレッチ
【むくみ腸タイプ(全身がむくみやすい体質)】
慢性的な腸内環境の悪化により、腸が炎症を起こしている状態。
余分な水分を溜め込み腸がむくんでいます。
水分代謝が悪いので、全身がむくみやすくなります(慢性便秘の人に多く見られます)。
▢水分は適度にとっているのに、むくみが気になる。
▢体のむくみが気になる。
▢代謝が悪いと感じる。
▢運動が苦手でほとんどしない。
▢デスクワークや座っている姿勢が多い。
▢血色が悪い。
<おすすめ対処法>
・週3回のウォーキング
・ヨーグルト、オリゴ糖、水溶性食物繊維などをとる。
【ストレス性腸タイプ(痙攣性便秘)】
睡眠不足や過度の緊張など、強いストレスによって自律神経が乱れ、便秘と下痢を繰り返すタイプ。
▢下痢と便秘をくり返しやすい。
▢リラックスする時間がなく、常に何かに追われている。
▢便秘の状態が日々、不安定。
▢ストレスを感じることが多い。
▢眠りが浅いと感じる。
▢人に気を使い過ぎると感じている。
<おすすめ対処法>
・お風呂でぬるま湯につかる。
・深呼吸をする。
・プラス思考を心がける。
いかがでしたか?
どのタイプであっても、食事・運動・睡眠などの生活習慣を見直し、腸内環境を整えることは「基本のキ」です。
そのうえで、自分のタイプに合った対処法を試してみてください。
お通じに問題のない人は、引き続き乳酸菌や発酵食品などを上手にとりながら、元気な腸を維持していきましょう。
症状がつらい人、なかなか改善しない人は、無理をせず便秘外来を受診しましょう。
【なぜ腸が「第2の脳」と言われるのか】
「腸内環境」という言葉をよく耳にします。
それだけ腸の役割や働きに注目が集まっているようです。
では、なぜ腸がそれほど重要なのか、きちんと理解している人は少ないと思います。
ここ数年、腸には複雑な神経ネットワークがあることが明らかになってきました。
そうしたことから、腸は「第2の脳」と呼ばれるようになっています。
実は、人間を含めて生物には、腸しかない時代があったようです。
しかも、脳は腸と非常に似た構造を持っていることから、生物学的には腸が進化した一つの形が脳ではないかといわれたりしています。
ちなみに、原始的な生物には脳はありませんが、腸はあります。
脳がないのに、どうやってものを考えたり、食欲を感じたりするのだろうと、疑問に思われるかもしれませんが、腸が考えて、全身に命令を出していると考えられています。
つまり、腸は生物にとっては脳であり、ミミズなどがその例です。
では、脳と腸の両方がある人間はどうでしょうか。
人間の場合、脳と腸の両方でものを考えていると見られています。
その理由は、腸内でつくられた神経伝達物質、つまり、ホルモンが脳に運ばれて使われたりしているからです。
腸内細菌が大事だと言われるのは、そのバランスによって、体の中でどのホルモンが使われるかが決まるからです。
そして、脳をはじめ、自分たちの体の環境が動いていくわけですから、むしろ腸は「第1の脳」ではないかという話もあるほどです。
ここで、腸がもつ衝撃的な能力を紹介します。
腸内細菌にはいろいろありますが、腸内の微生物群のことを「マイクロバイオータ」と言います。
さらに、その微生物群はさまざまな遺伝子を持っていて、ゲノム情報の総体を「マイクロバイオーム」と言います。
マイクロバイオームは、「人の遺伝子を補う腸内細菌の遺伝子群」と説明されていますが、これはすごいことで、腸内細菌が人間の遺伝子を調整していることになるからです。
多くの人は、遺伝子というのはすべて自分自身がもっているものだと思っているのではないでしょうか。
でも、実際は99%の遺伝子は腸内細菌がもっているのです。
なぜ、このような仕組みになっているのかというと、遺伝子の数が増えれば増えるほど、コピーするのが大変になり、ミスや欠損が増ます。
そのため、「セロトニンと免疫は腸内細菌が調整してくれるよね」というように、腸内細菌がもっている遺伝子は腸にまかせることにしたのです。
赤ちゃんが自然分娩で生まれると、赤ちゃんは母親の腸内細菌やマイクロバイオータを受け継ぎ、免疫や腸内細菌、腸内フローラなどを獲得していきます。
つまり、親から遺伝子を一緒にマイクロバイオータも受け継いでいるわけです。
ですから、腸内細菌がいなくなると、遺伝子の99%が失われるため、体にとっては非常に危険な状態になります。
実験でも、無菌室のような腸内細菌がいない環境で育てたマウスは、極端にリスクを恐れなくなるほど、自分を守る能力がなくなるという弊害が起こります。
このことから、子供を抗菌状態で育てるのはあまりよくないのではないかと、言われるようになっています。
実際に、子供のころにペットに触れる機会が少なかったり、抗菌や煮沸(しゃふつ)消毒が徹底されたりした環境で育つと、ぜんそくやアレルギーになりやすかったりします。
逆に考えると、体の不調は、腸内細菌を補うことで改善されるのではないかという仮説を立てることができます。
無菌室のマウスの実験でも、普通の環境で育てられたマウスの腸内細菌を移植すると、正常な機能を取り戻すことがわかっています。
腸内細菌の形成は子供の頃に行われるのですが、このときに一度きちんと形成されれば、菌がある程度残るため、大人になってからその能力を失ったとしても、腸内細菌を整えることで健康な状態に戻れると言われています。
【花粉症もこれで解決!】
花粉症というのは免疫が強く働きすぎている状態なので、そのバランスを正常に戻せば解決します。
腸内細菌は、免疫と相互調整を行っています。
その理由は簡単で、腸内細菌が増えると免疫はその暴走を止めなくてはなりません。
そのため、免疫はつねに腸内細菌をチェックしているのです。
つまり、腸内細菌と、T細胞と呼ばれる免疫細胞とのバランスがとれていると、体は健康的な状態を保っていると言えます。
では、どうすれば腸内細菌を増やし、腸内環境を整えることができるのでしょうか。
腸内細菌のエサとなる食事をMAC(腸内細菌に届く炭水化物)といいます。
MACは、オリゴ糖や食物繊維などを指しますが、こういうものを食事でとることが、腸内環境を整えるうえでとても大事になります。
MACは人間の栄養にはなりませんが、腸内細胞の栄養になるものなので摂取する必要があるのです。
そして、MACをとらずに腸内細胞が餓死状態になると、おそろしいことが起こります。
まず、腸が乱れ、腸内細胞が腸壁を食べてしまいます。
腸内細菌がエサにできるのは、私たちが口から摂取するオリゴ糖や食物繊維などと、もう一つは腸壁なのです。
つまり、野菜を食べない、オリゴ糖をとらない、というようにMACをとらない生活が続くと、腸内細菌はお腹が空いてしようがないので、何でもいいから食べようとなって腸壁を食べはじめるのです。
そして、腸が荒れ、炎症が起こります。
さらに恐ろしいのは、腸壁が薄くなると、悪玉などの有害な菌が入ってきて、あっという間に感染してしまうことです。
腸が荒れている方は、最近のせいというより、腸内細菌のエサになるMACを食べていないからかもしれません。
【腸内細菌と母乳の関係】
母乳を飲んで育った赤ちゃんは、腸内環境が元気だったり、多様性に富んていたりすると言われています。
これは、母乳に含まれるヒトミルクオリゴ糖によるものです。
この糖は非常に複雑で、人工合成ができないため、粉ミルクには含まれません。
ヒトミルクオリゴ糖が入っていない粉ミルクだけで育つと、ヒトミルクオリゴ糖を食べて育つ腸内細菌が繁殖できなくなります。
そうすると、腸内細菌の種類が減り、多様性が失われると考えられています。
なぜ、多様性が大事なのかというと、腸内細菌の種類が少ないと、特定の菌が猛威をふるったり、悪玉菌が出てきたりして、弱い腸になるからです。
とはいえ、完全母乳の必要はないようです。
寝る前に少しだけ飲ませるなのでもいいので、粉ミルクだけではなく、母乳もある程度は飲ませるようにしたほうがいいと言われています。
さらに、母乳には母親由来のマイクロバイオータが含まれていますので、栄養だけでなく、マイクロバイオータも受け取るという意味で一石二鳥なのです。
そして、腸内細菌が免疫細胞であるT細胞とバランスをとっているということは、腸内細菌を増やすと自己免疫疾患などにも効くことが考えられるため、おそらくアレルギーなどにも効果があるのではないかといわれています。
このように、体にとって腸内細菌は非常に重要ですが、その腸内細菌を殺してしまうのが抗生物質です。
ペニシリンをはじめとする抗生物質は、病気の特効薬としては優秀です。
でも、作るのに非常にお金がかかります。
というのも、臨床実験をたくさん行い、どういう菌に効くのかなどを調べなくてはならないからです。
そうすると、製薬会社は売り上げを出すのが難しくなります。
そこで、特定の菌だけでなく、いい菌も悪い菌も手当たりしだいに殺すような抗生物質をつくるようになります。
そうすることで、いろいろな病気に使うことができますが、当然、腸内細菌も殺すことになって、腸内環境は悪化してしまうのです。
↓ 参考書籍
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