【日本食の隠れたカロリー爆弾】 塩分の罠!

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2013年に日本食がユネスコ無形文化遺産に登録され、日本食の魅力が世界中に注目されている。

多くの人は日本食は健康的であるというイメージを持っているが、実は日本食が本当に健康に良いというエビデンスは弱い。

確かに、魚や野菜を多く摂取できるという点においては日本食は優れていると考えられるのであるが、日本食には2つの問題点がある。

(1) 炭水化物が多いこと。

(2)塩分摂取量が多すぎること。

日本人は総エネルギーのうち58%を炭水化物が占めているが、この割合はアメリカ人の50%、フランス人の45%と比較しても多い。

もちろん「茶色い炭水化物」であれば健康に悪くないのだが、炭水化物の大部分を玄米や蕎麦で摂取している日本人はまだそれほど多くないのではないだろうか。

【日本人はアメリカ人より塩分をとっている】

日本人の塩分摂取量が、ハンバーガーやピザなど「不健康な食事の代表」のような食事をしているアメリカ人の塩分摂取量よりも多いことには驚きを隠せない。

2013年に世界187か国の人の立事中の塩分摂取量を比較した研究によると、日本人の1日あたりの塩分摂取屈は12.4g(男性で1日13.0g、女性で11.9g)であり、世界平均の10.1gやアメリカの9.1gと比べても20%以上も多かったのだ。


では塩分摂取量が多いと何が問題なのだろうか。

塩分の健康への影響に関して最もよく知られているのは血圧との関連である。

余分な塩分は腎臓から尿中に排泄されるのだが、塩分摂取量が多すぎると腎臓で処理しきれなくなってしまい、余分な塩分が体内に蓄積されるようになる。

そうすると血液の浸透圧が高くなり、人間の脳はそれを薄めようとして「のどが渇いているので水を飲め」という指令を出すようになる。

これは生理的な反応であるため強い意志を持って水を飲まないということは不可能である。

ちなみに、海で遭難した場合に死を早めてしまうので海水を飲んではいけないと言われているのも同じ理由(体内の塩分濃度0.9%に対して海水の塩分濃度は約3%)と高いためからである。

このような生理的な反応の結果、人は水を飲み、体の中をめぐる血液の量は多くなる。

ホースで水を撒いている時に、蛇口をひねって出る水の量を増やすとホースが膨れ、ホースにかかる圧が高くなるのと同じ原理で、体をめぐる血液の量が増えると血管にかかる圧、つまり血圧が高くなってしまう。

【塩分のとりすぎが引き起こす病気】

高血圧は血管に常に圧がかかっている状態であるため、放置しておくと血管が少しずつダメージを受け、その結果として動脈硬化が起こり、いずれは血管が詰まって脳卒中や心筋梗塞を引き起こしてしまう。

最新の研究によると、日本人が死亡したり麻痺などの障害を持つことになってしまう原因の第1位が食習慣で、第2位が高血圧であった。

塩分の問題が日本人にとっていかに重要な問題であるかわかってもらえると思う。

塩分の健康への悪影響を軽減するには大きく分けて2つの方法がある。

塩分摂取量を減らすか、カリウムを多く含む食品を摂取するかである。

塩分とカリウムは逆の働きをする。

塩分が血圧を上げるのに対して、カリウムには塩分の体外への排泄を助けることで、血圧を下げる効果がある。

よって、カリウムを多く含む野菜や果物は血圧を下げてくれるとされている。

ある研究によると、カリウムの摂取量が最も多いグループは最も少ないグループと比べて死亡するリスクが20%も低かった。

塩分とカリウムの比をとると、カリウムと比べて塩分摂取量が多いグループの人は心筋梗塞によって死亡するリスクが2倍も高かったと報告されている。

1つだけ注意が必要なのは、腎臓が悪い人にとってカリウムのとりすぎは危険であるということである。

血液中のカリウムが多くなって心臓の不整脈を起こすリスクがあるのだ。

血圧が高い人の中には腎臓が悪い人も多いので、健康診断などで腎臓の問題を指摘されたことのある人は、食事中のカリウムの量を増やす前に、かかりつけの医師に必ず相談してほしい(腎臓病の人にとっての最適な食事に関しては後で詳しく説明する)。

【心筋梗塞や脳卒中になりやすくなる】

塩分摂取量が多いと血圧が高くなり、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇することは複数の研究より明らかになっている。

また塩分摂取量を減らしてカリウム摂取量を増やすことで、心筋梗塞や脳卒中になるリスクが25%下がると報告されている。

そして、 19個の観察研究をまとめたメタアナリシスの結果でも、塩分摂取量が多い人は脳梗塞のリスクが23%高いとされている。

実は、塩分摂取で高血圧になるだけでなく、塩分は胃がんの原因となる可能性も示唆されている。

欧米人には大腸がんが多いのに対して、日本人や中国人に胃がんが多日本食や中華料理には塩分が多く含まれることが原因の1つであるという仮説がある。

さらには、塩分摂取量が多いことで骨粗しょう症になるという研究結果もある。

塩分が尿中に排せつされる時に、骨を固くするのに重要なカルシウムが一緒に捨てられてしまうためだと考えられている。

いずれにしても塩分は日本人の健康にとってとても重要な意味を持っている。

日々の食事を塩分控えめにして、野菜や果物をとることで余分な塩分を体外に捨てることが肝要である。

【みそ汁を薄めて飲んでもダメ】

ここで日本人にしばしばある誤解について説明したい。

日本人はみそ汁という塩分を多く含むスープを飲むため、みそ汁を毎日飲むのをやめたり、塩分を控えめにすることで塩分摂取量を減らすことができる。

そういった説明をすると、みそ汁にお湯を入れて薄めて全量飲む人がいるが、これは全く意味がない。

お湯で半分の濃さになったみそ汁を2倍飲んだら、結局体に入る塩分の量は変わらない。

重要なのは「味が塩辛いかどうか」ではなく、どれだけの塩分が口から入っているかである。

もちろんラーメンやうどんなどの麺類のスープに関しても同じことが言える。

同じ考え方で、みそ汁を薄味にする代わりに、濃さを変えずに量を半分にするという方法もある。

量を変えずに濃さを半分に薄めても、同じ濃さで半分の量だけ飲んでも、体に入る塩分の量は同じだからである。

【まずはみそ汁と漬物をやめてみる】


野菜や海藻などのみそ汁の具を多くすることで、汁の量を相対的に少なくしましょうというのは昔からよく行われている指導方法であるが、こちらであれば効果的に塩分摂取量を減らすことができる。

しかし私は、塩分摂取量が多い患者さんには、まずみそ汁と漬物をやめてもらうことにしている。

これらは習慣的に食べているかもしれないが、食卓に並ばないのに慣れると意外と問題ない。

みそ汁や漬物に含まれる栄養の多くは、生の野菜や果物を食べれば摂取できるからである。

【牛肉、豚肉、ソーセージやハムは健康に悪い】

「塩分問題」に続き、「良くないとされている食品」について語っていきたい。

2015年10月、世界保健機関(WHO)の専門組織、国際がん研究機関(IARC)が、「加工肉は発がん性があり、赤い肉はおそらく発がん性がある」と発表した。

IARCは、世界中の研究結果を元に、ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉をグループ1(人に対して発がん性がある)、赤い肉をグループ2A(おそらく発がん性がある)に分類した。

ちなみに「赤い肉」(赤肉と表現されることもある)と、一般的に脂の少ないという意味合いで使われる「赤身の肉」とは意味が異なる。

赤い肉とは、牛肉や豚肉のように見た目が赤い肉のことであり、いわゆる「霜降り肉」も含まれる。

一方で、鶏肉は「白い肉」と表現され、赤い肉には含まれない。

グループ1は発がん性のエビデンスが最も強いグループであり、このグループに分類されるものには他にタバコやアスベストなどがあり、グループ2Aに分類されるものには無機鉛化合物などがある。

加工肉の場合、1日あたりの摂取量が50g(ホットドッグ1本、ベーコンスライス2枚)増えるごとに、大腸がんのリスクは18%増加すると報告されている。

赤い肉の場合、1日100g摂取するごとに大腸がんのリスクが17%増加するとされていた。

【日本人には当てはまらない?】

このレポートは日本でも広く報道され、注目を集めた。

世界中の精肉業界から、反対声明が発表された。

日本食肉加工協会など国内3団体も共同で「加工肉に対する信頼を揺るがしかねない」との声明を出した。

もちろん関連業界は売り上げに大きな影響を与えるので反対せざるを得ないだろう。

あらゆる手を使って、赤い肉や加工肉は健康に悪いものではない、という印象を与えるようなマーケティングをした。

その中でも、日本人の赤い肉や加工肉の摂取量は少ないため、この結果は日本人には当てはまらないという主張をしばしば目にする。

確かに日本人の摂取量は、2013年の国民健康・栄養調査で63g(赤い肉50g、加工肉13g)であり、世界でも比較的低い国に入る。

でも日本人が摂取している量であったら本当に問題ないのだろうか。

まずはこれらのレポートでも話題になった大腸がんに関して簡単に説明しよう。

大腸がんはその発生部位によって①直腸がんと②結腸がんの2つに分けられる。

肛門に近い直腸にがんができれば直腸がんと呼ばれ、肛門から遠い結腸にがんができれば結腸がんと呼ばれる。

日本人の食事の西洋化の影響もあり、大腸がんは日本人で急激に増えているがんである。

がんに罹る人数(罹患数)で言うと、大腸がんは男性で胃がん、肺がんに次いで第3位であり、女性では乳がんに次いで第2位である。

死亡率で見ると、男性では肺がん、胃がんに次いで第3位、女性ではなんと第1位である(第2位は肺がん、第3位は胃がん)。

食事の影響を大きく受けることもあり、日本人にとっても最も重要ながんの1つであると言っても過言ではないだろう。

【大腸がんのリスクが高くなる】

国立がんセンターの研究者が行った日本人を対象にした研究がある。

岩手から沖縄まで広い地域に住む45~75歳の約8万人を8~11年間追跡したものである。

その結果、赤い肉や加工肉の摂取量が多くなるほど、大腸がんのリスクが高くなる傾向が認められた。

大腸がんを結腸がんと直腸がんに分けて見てみると、結腸がんで赤い肉や加工肉の影響が認められた。

赤い肉の摂取量に応じて5つのグループに分けると、女性においては、摂取量が一番多いグループは一番少ないグループと比べて結腸がんのリスクが48%高かった。

男性においては統計的に有意ではなかったものの、やはり赤い肉の摂取量が多いほど結腸がんのリスクが上がる傾向が認められた。

【ソーセージやハムも死亡率を高める】

加工肉に関しては、5つのグループに分けた解析では統計的に有意な結果は得られなかった。

しかし、より細かく10個のグループに分けて解析してみると、男性においては最も摂取量が多いグループで37%結腸がんのリスクが高くなり、統計的に有意な結果であった。

女性では統計的に有意な結果は得られなかったものの、やはり結腸がんのリスクが高くなる傾向が認められた。

【脳卒中や心筋梗塞のリスクも上昇】

赤い肉や加工肉とその他の健康の関係はどうなのだろうか。

世界に目を向けると数多くの研究が実施されている。

9つの論文を統合したメタアナリシスによると、加工肉の摂取量が多くなるほど、全死亡率、脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化による死亡率、がんによる死亡率がいずれも上昇することが明らかになっている。

脳卒中に関してはどうだろうか。

5つの論文をまとめたメタアナリシスによると、加工肉の摂取量が1日あたり50g増えるごとに脳卒中を起こすリスクが13%増加し、赤い肉の摂取量が1日あたり100~120g増えるごとに脳卒中のリスクが11%上がることが明らかとなっている。

まとめると、日本人においても牛肉や豚肉などの赤い肉や、ハムやソーセージなどの加工肉は、大腸がんのリスクを上げるだけでなく、脳卒中や死亡率の上昇にもつながる体に悪い食品であると考えられる。

現時点では、この2つを比較すると、加工肉の方が健康に悪いと言うことができるだろう。

普段の食事では、できるだけ赤い肉や加工肉の量を減らして、代わりに魚(健康へのメリットあり)や鶏肉を摂取することをおすすめする。

↓ 参考書籍

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