読んで得た知識を自在にアウトプットするには、頭に定着させなければなりません。
読んだのに忘れてしまう。
読んだのに、ここが大事だと意識したのに忘れてしまう。
なぜ、こうしたことが起きるのか。
そこには脳のある性質が関わっています。
たちの祖先は狩猟時代、数十人から100人程度の群れを作って暮らしていました。
何かを覚えなければならないときも群れ全体で共有すれば済んでいたので、個々が出典の確認やテクニカルタームに当たる「場所」などを示す言葉を記憶する必要がなかったのです。
オックスフォード大学で生物学を専門とするリチャード・ドーキンス博士は、「人間の脳はアフリカの大草原に暮らしていた頃と大きく変わっていない」と指摘しています。
人類が草原で暮らしていた当時は、丈の高い草の中で何かの音が聞こえたときに、「あの音は何だ!」と考えたり、エビデンスやデータを取って調べ始めたりすると、肉食獣に襲われてしまいます。
当時は条件反射で逃げることが「正解」で、脳もその方向で進化しました。
その結果、今も私たちは、データを取ること、エビデンスを確認したりしてロジカルに考えること、使い慣れないテク二カルタームを覚えることが苦手なのです。
脳は生死に関わること、生活に根ざしたこと、強い感情と結びついたことを優先的に記憶するようにできています。
しかも、現代を生きる私たちは圧倒的な量の情報に触れる環境に生きています。
ネット、テレビ、ラジオ、本など、流れ込む情報が増えれば触れるほど、脳は処理しきれず、データやエビデンス、テクニカルタームを忘れていきます。
これは記憶の容量の限界を超えないよう守るための反応です。
そして、「正しかった」「間違っていた」「イライラした」「おもしろかった」など、感情の動きを伴う出来事を優先的に記憶していきます。
脳の記憶に関するメカニズムにこうした性質があるからこそ、意識的にデータや工ビデンス、テク二カルタームを覚えていくことに価値が生じるのです。
【睡眠は学習能力を50%短縮する】
そこで、本のキーポイントを必要なときに、自在に再生できる記憶術を紹介します。
それが、「インターリーピング睡眠」です。
認知科学の世界では、以前から睡眠が記憶の定着率と密接に関係していることがわかっていました。
あなたも「勉強をした後に睡眠を取ると記憶に定着しやすい」「睡眠中に記憶が整理されるので、寝る前に復習すると効率的」といった話を聞いたことがあると思います。
こうした睡眠と記憶の関係を「睡眠によって学習効果をより高くするためには?」という問いを立てて調査したのが、フランスのリヨン大学の研究チームです。
彼らは、40人の男女を対象にスワヒリ語を記憶してもらうというリサーチを実施。
その際、参加者を2つのグループに分け、勉強の仕方を変えてもらいました。
グループA/午前中に勉強して、午後にも勉強して、その後、普通に眠ってもらう。
グループB/午前中に勉強して、一度眠り、その後にもう一度勉強してもらう。
A、Bどちらのグループも1日しっかりとスワヒリ語を勉強していますが、Bグループは昼寝を挟んでいるわけです。
その後、全員に覚えた単語のテストを行いました。
すると、勉強の合間に睡眠を快んだBグループはAグループに比べ、単語を多く記憶していただけでなく、想起能力(思い出す能力)も高まっていたことがわかったのです。
勉強と勉強の合間の睡眠ということで、研究チームは「インターリーピング睡眠」と名付け、「睡眠を取らなかった場合と比べると約2倍の記憶力、想起能力の違いが生じる」と指摘しています。
ポイントは、勉強が一区切りついたところで眠るのではなく、中途半端でも時間で区切り、仮眠を取ること。
インターリーピング睡眠には、1回学んだことを忘れにくくする効果もあります。
読書や勉強というインプットの後に脳を意図的に使わない状態にすることで、記憶が定着しやすくなり、必要なときに応用する想起能力も高まるからです(ここで言う想起能力とは、記憶したデータやエビデンス、テク二カルタームを必要なときに活用できる能力だと考えてください)。
インターリーピング睡眠を読書に当てはめるなら・・・
「この章には重要なデータやエビデンス、テク二カルタームが書かれているから最後まで読み終えてから休憩しよう」
ではなく
「疲れを感じたら切り上げ、眠る。起きてから続きを読み始める」となります。
インターリーピング睡眠に必要な睡眠時間ですが、リヨン大学の実験では90分の睡眠が推奨されていました。
無理なく日常生活に取り入れるなら、夜、眠る前の時間帯に本の中のキーポイントを読む、あるいは要約したノートを見返すなどした後、ベッドヘ。
翌朝、少し早めに起きて続いを行うサイクルにすると、うまくインターリーピング睡眠を活用できるのではないでしょうか。
新たなジャンルの読書を始めるときは、入門書を先に読んでからインターリーピング睡眠を取り、翌日、難易度の高い本に向き合うとスムーズに理解できるようになります。
【目を閉じるだけでも、記憶の定着が10%高まる】
「インターリーピング睡眠」が効果的なのはわかったけれど、日中に仮眠を取る時間がない。
仕事や子育て、介護など、生活サイクルの問題で夜、寝る前の時間を読書に当てることができない。
そんな人のためにもう1つ、記憶を定着しやすくし、想起能力を高める脳の休め方を紹介します。
その手法が「ウェイクフルレスト」です。
読書や勉強の合間に4分から6分ほど目を閉じて、ボーッと何も考えない時間を作るという方法です。
何時間もぶっ続けで読書や勉強をするのはすごいことのように思えますが、それは根性で何もかも達成できるという間違った考え方。
「インターリーピング睡眠」で述べたように、脳には休息が不可欠です。
読書や勉強の間に「何もしない時間」を用意しなければ、記憶の定着は図れません。
インターリーピング睡眠にしろ、ウェイクフルレストにしろ、脳を休める時間を取らない人は懸命に努力しているようで、実は読書でも、勉強でも、仕事でも成果が出にくいルートに入ってしまっています。
受験の世界では「四当五落」と、睡眠時間を削って勉強した人が合格すると言われてきましたが、確実に逆効果です。
難易度の高い本を読むときほど、ウェイクフルレストを意識しましょう。
休憩を取ることで、読んだ本を使いこなせるようになるのです。
認知機能に関する複数の研究でも、目を閉じ、安静にしているだけで脳の認知機能が向上、集中力も回復することがわかっています。
受験に限らず、資格取得の時なんかに取り入れるのいいでしょう。私も思い出しては実践しています。お子さんなどに教えてあげるのもいいと思います。
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