筋トレ後のクールダウンに意味はない?

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多くの人がトレーニング後にジョギングやウォーキング、ストレッチなどのクールダウンをしていると思います。

アメリカのトレーナーの89%がクールダウンを推奨しているようです。

クールダウンには、ジョギングやウォーキングなどの「アクティブ(活動的)・クールダウン」とマッサージやストレッチなどの「パッシブ(受動的)クールダウン」があります。

これまで、アクティブ・クールダウンには、パッシブ・クールダウンに比べると疲労に関与する代謝産物の減少や筋肉痛の軽減、心拍数の回復など、多くの有益な効果があると考えられていました。

これまでに報告された運動後4時間以降のアクティブ・クールダウンによる効果を検証した結果、残念ながら「常識」とされていた効果が、ことごとく否定されています。

【疲労が取れる → ✖】

これまで、トレーニングのあとにはクールダウンをして、乳酸を除去することが早期の疲労回復に繋がると言われていきました。

しかし、近年では、疲労は乳酸から生じるのではなく、水素イオンの蓄積によって筋肉が酸性(アシドーシス)になることが要因とされています。

そこで、アクティブ・クールダウンによる筋肉のアシドーシスに対する効果を検証した結果、運動から80分後のアシドーシスを低下させる効果は認められませんでした。

すなわち、アクティブ・クールダウンによる乳酸の除去効果は期待できますが、肝心の「筋肉の酸化を防いで疲労回復ができる」というエビデンスは存在しないのです。

【筋肉痛が減少する  → ✖

アクティブ・クールダウンには、筋肉痛による痛みや筋損傷マーカーの減少効果があるという説は、長年トレーニーたちの間で、「常識」でした。

アクティブ・クールダウンが筋肉や皮膚への血流を増加させることで、乳酸や筋肉痛の因子の蓄積を減少させ、筋肉の修復を加速すると考えられてきたためです。

その後、多くの研究報告でその説は否定され、2018年に発表されたメタアナリシスにおいても、アクティブ・クールダウンによる筋肉痛の痛みや筋損傷マーカーを減少させるエビデンスは示されなかったのです。

【脳疲労を改善する  → ✖

筋肉の発揮には神経活動が大きく関与しています。

そのため、高強度トレーニングを終えたあとには、筋肉の疲労である末梢神経疲労だけでなく、脳が疲労する中枢性疲労も生じます。

かつてはこの末梢性および中枢性疲労に対してもアクティブ・クールダウンが効果的であるとされていました。

しかし、高強度トレーニング後のアクティブ・クールダウンによる最大筋力(末梢性疲労)、電気誘発性筋力(中枢性疲労)を計測した結果、有意な改善効果は示されませんでした。

【体が柔らかくなる  → ✖ 】

トレーニングを疲労困憊まで行うと、筋肉の損傷により筋肉の硬さが生じ、関節の運動範囲(可動域)が狭まります。

アクティブ・クールダウンは、この筋肉の硬さを最善し、関節の運動範囲を広げると言われています。

しかしながら、現在までの報告では、アクティブ・クールダウンが筋肉の硬さや関節の可動範囲を広げるポジティブな結果は示されていません。

サッカー選手を対象にトレーニング後のアクティブ・クールダウンによる筋肉の柔軟性を検証した研究報告では、ストレッチによるパッシブ・クールダウンと比較して有意な効果は認められませんでした。

このようなアクティブ・クールダウンによる筋肉の硬さ、関節の運動範囲についての検証は、現在のところ7つ報告されていますが、そのすべてがネガティブな結果となっています。

【筋力を回復させる「筋グリコーゲン」を合成できる  → ✖ 】

高強度トレーニングは、筋肉のグリコーゲン貯蔵を枯渇させる可能性があり、トレーニング後24時間までの筋力を損なうことが示唆されています。

そのため、アクティブ・クールダウンを行うことによって、早期に筋グリコーゲンを再合成することが筋力の回復に有益であると考えられていました。

しかし多くの研究結果では、アクティブ・クールダウンがパッシブ・クールダウンと比較して、筋グリコーゲンの合成速度に有意な差がないことを示しているとともに、アクティブ・クールダウン単独においても、その効果が否定されています。

さらに注目したいのは、アクティブ・クールダウンにより、筋グリコーゲンの合成が妨げられる可能性があることです。

高強度トレーニング後にクールダウンを行い、その45分後の筋グリコーゲンの量を調査した報告では、パッシブ・クールダウンでは筋グリコーゲンが増加したのに対して、アクティブ・クールダウンの場合、その増加は認められませんでした。

【心拍数・呼吸数が回復する  → ✖

アクティブ・クールダウンには筋肉の生理学的効果だけでなく、心拍数や呼吸数、発汗や体温調整などの回復期間を短くする効果が期待されていました。

実際、サイクリングトレーニング後のアクティブ・クールダウンによる心拍数・呼吸数の回復効果を検証した報告では、パッシブ・クールダウンに比べて効果が高いことが示唆されており、同様の結果が他の研究結果からも示されています。

しかしながら、他の報告では、パッシブ・クールダウンと比べて回復効果に差がないことも示唆されており、十分なコンセンスが得られていないのが現状です。

【心理的ストレスや睡眠量を回復させる  → ✖ 】

さらに、トレーニングによる心理的ストレスの増加や睡眠量の低下が示唆されていますが、アクティブ・クールダウンはこのような心理面の回復効果があるとされていました。

しかし、多くの研究結果からこのような心理面、睡眠量へのポジティブな報告はなく、逆にトレーニング経験が少ない場合は、アクティブ・クールダウンが心理的ストレスを増加させる可能性が示唆されています。

佐藤さん

7つの誤解があったようです。高強度のトレーニングの後にジョギングやウォーキングをしても、上記の効果は期待できそうにないですね。

【クールダウンをするなら気をつけたい3つの注意点】

これらの研究報告をまとめて、「アクティブ・クールダウンによる効果は、乳酸除去の効果は期待できるが、それ以外の生理学的効果においては現在のところの有効性はない」と結論づけています。

しかし一方で、クールダウンによるプラセボ効果は否定できず、個人にあったアクティブ・クールダウンの実施は否定しないとして、いくつかの注意点を述べています。

・血流を増加させることを目的として低~中強度で行うこと。

・クールダウンによるさらなる筋肉損傷を防ぐためにも 低~中強度で行うこと。

・筋グリコーゲンの合成を妨げないようにクールダウンは30分以内にとどめること。

今でも私たちが当たり前のこととして行っているアクティブ・クールダウンはその効果のエビデンスを検証するどころか、検証するための研究さえも十分に行われているのが現状で、効果がないと言っているわけではなく、その効果に十分な科学的根拠が示されていないということですので、注意してください。

↓ 参考書籍

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