僕(著者)のために運ばれてきたばかりの野菜ラザニアが目の前で湯気を立てている。
僕はふと左に目をやった。
こちらにも男女が一組座っている。
男性は三十歳後半、女性はもう少し若そうだ。
こちらの二人もまだつき合ってはいない。
そして、今後もつき合うことはけっしてないだろうと思われた。
男性は90年代には流行最先端であっただろうブルーのジャケットを着ている。
タック入りのスラックスもその時代の遺物だろう。
一方、女性のファッションはまったくタイプが違った。
レザーのロングブーツにスキニージーンズ、それに身体にぴったり合ったセーターというスタイルだ。
二人のファッションがまったく合っていないのだ。
男性の口もとに目をやった僕は、思わず女性に同情した。
彼の口からは猛烈な勢いで絶え間なく言葉があふれ出ている。
だが、あいにくその内容は彼女にとって興味をそそるものではないようだ。
その証拠に、女性は眉をぐっとつり上げている。
これは明らかに危険信号だ!
今すぐここから立ち去りたい、そんな感じである。
彼女はもはや相手の言葉を遮ろうとさえしていなかった。
彼との間に見えない壁をつくって、ひたすらじっと耐えている。
彼女の目を見ると、その視線がだんだんと上に行くのがわかった。
見えない壁を上へ上へと積み上げているのだ。
どうやらもっと高い壁が必要らしい。
もし仮にお相手の男性にほんのひとかけらでも観察力があれば、とっくに口を閉じていただろう。
そして女性が何を望んでいるかを悟り、店員に「お会計を」と声をかけていたはずだ。
そうすれば彼女もようやく初めての(そして最後の)笑顔を見せてくれたことだろう。
ラザ二アを食べながら僕は考える。
なぜこんなにも似合いでない男女が、今夜こうしてデートする運びとなったのだろう?
しかもよりによって、僕のお気に入りのレストランで・・・。
強制的なお見合いといった感じではなさそうだ。
するとビジネス上の会合だろうか。
いや、服装から見て、それはない。
おそらくオンラインの出会い系サイトでのマッチングミスだろうと僕は見当をつけた。
コンピューターが興味や関心の似た男女をマッチングする際に、何か手違いが生じたのだろう。
ブロッコリーをじっくり咀噌しながら、僕は二組の男女をさらに細かく観察した。
ボディー・リーディングでは、細かい点こそが非常に多くのことを教えてくれる。
注目すべきは「足」だ。
人間は頭から遠い身体部位ほど意識がいかなくなり、ついつい本音が表れてしまうからだ。
おしゃべりな「男性」は、異性にあまり良い印象を与えていません。同性の私から見ても「口ばっかの奴」と思ってしまいます。また著者のように「観察」して「想像」してみることは、個人的に面白いと感じました。
【デートではガラステーブルのレストランを選びなさい】
右側に座る未来の恋人たちを見ると、女性も男性もつま先は相手のほうを向いている。
これはよいサインだ。
足は無意識のうちに、脳が興味を感じた方向に向く。
だから相手の足を見て「今にも出口に向かって駆け出しそう」という印象を受けるようでは、もはやおしまいだ。
逃げることしか考えていない相手とお近づきになれるチャンスはほぼないからだ。
もしあなたが近々異性とデートする予定なら、ガラステーブルのレストランを選ぶといい。
そうすれば、テーブルクロスをめくって相手の足を盗み見るような真似をしなくてすむ。
僕は続いて、左に座る希望のないカップルの足先チェックに移った。
男性のつま先は女性のほうを向いている。
まあ当然だろう。
何しろ彼女はかなりの美人だ。
しかし、女性のつま先は男性とは少しばかり様子が違った。
女性は椅子の脚に内側から足を絡め、足首を引っかけている。
これは明らかに逃げ出したいというサインだ。
椅子の内側に足やつま先を引っ込めるのは、相手との距離を広げたいという気持ちの表れである。
相手に陣地を明け渡して、文字通り後ろに退きたいのだ。
つまり、座ったまま逃げ出そうと試みている。
しかも、この女性の場合は足を椅子に絡めて動きを封じることで、実際にそんな失礼なことをしないように自分を戒めているのだ。
かわいそうに!
テーブルクロスに遮られ、相手の男性はテーブルの下を見ることはできない。
でも、たとえガラステーブルだったとしても、彼は何も気づかないだろう。
ましてやそれを自分の言語に「通訳」するなど夢のまた夢だ。
この人が非言語サインを読むのが苦手なタイプであることは一目瞭然だった。
相手の様子にまったく気づかず、自分ばかりに意識が向いている。
今や男性は大きな身振りを交えてエンジン全開でしゃべりながら、わずかに身を前に乗り出した。
これは作戦としては別におかしなものではない。
誰かと近つきたければ、その人のテリトリーに入り込む必要がある。
すでにお話しした通り、自分の周辺スペースを上手に操ることは非言語コミュニケーションでは重要な鍵となるのだ。
ただ、この男性の場合、前に出るタイミングが悪すぎた。
本来なら女性の側がオープンな姿勢をとるまでじっと待つべきだ。
だが相手の女性は想像上の防御壁をどんどん高く築き上げて身を守ろうとしているから、身体を緊張させ、腕を胸の前で組んでいる。
しかも足だけではなく手まで隠して、アイコンタクトもほとんどない。
とても頑なな態度だ。
自分の殻にこもっているようにすら見える。
相手に1ミリの隙も見せず、ついには椅子ごと後ろに一歩下がった。
だが、男性はもちろん気づかない。
これは僕だけでなく、彼女から見ても明らかに減点だった。
後ろに下がったばかりか、彼女は男性の不躾(ぶしつけ)な振る舞いに対して、腕を組んでぐっと後ろに身をそらしたのだ。
この状況でこのしぐさはおそらく、この彼を除いてほぼ誰もが気づくであろう強烈な拒絶のシグナルだ。
これは自分の上半身を隠して触れられないようにする姿勢である。
上半身には命に関わる重要な臓器がつまっている。
だから人間は危険やテリトリーヘの侵入に直面すると、この部位を守ろうとするのだ。
その行動は多くは本能的に、無意識のうちに行われる。
この身体言語の意味は明らかだ。
そこに込められたメッセージとは「あまり近くに来ないで!」である。
自分の話に夢中になりすぎて、相手の「シグナル」に気づかない・・・私もそういうところがあったかな?思い返してみます(笑)。今回は時に「足」の向きでしたが、「目」や「腕」などあらゆる部位から、シグナルが出ている事がわかりますよね。世の男性は、よく「観察」してくださいね。
【グラスを置く位置で、相手との距離を締められる】
一方、右側に座るスニーカーの彼も同じくお相手のテリトリーに入り込むべく動き出した。
ただし、もっとさりげなく巧みなやり方で。
彼はワインを一口飲むと、そのグラスをもとの位置よりもほんの少し相手寄りに置いたのだ。
これは見過ごせない動きだ。
明らかにテリトリー拡大を、もっといえば征服を目的とした一手である。
女性のほうも、このわずかな変化にすぐに感づいた。
そして彼の非言語メッセージに対して、先ほど左隣の席で見られたのとまった<同じジェスチャーで応答したのだ。
そう、腕を組んで身体を後ろにそらす、あのしぐさである。
ただしこの文脈では、彼女のこの反応は先ほどとはまったく意味が異なってくる!
後ろに身をそらしたのは、単にリラックスしていて、彼と二人でいるのが心地よいからだ。
女性は男性が始めた「ゲーム」に乗った。
つまりこのジェスチャーは拒絶ではなく、「近づいてもいいですよ」という了承なのだ。
男性は何かを言ったあと、うなずいてみせた。
女性も同じくうなずく。
うまい手だ。
もし夕イミングよく一緒にうなずかせるような発言を彼が意図的に選んだのだとしたら、なかなかのやり手と言える。
相手は無意識のうちにうなずいてしまうのだが、その効果はまたたく間にその人の思考に作用する。
というのも、うなずきながら「ノー」と言うのは、じつはとても難しいからだ。
僕もよくこの現象をショーでうまく利用している。
観客にカードを選んでもらうとき、こちらの望むカードを引かせたにもかかわらず、知らん顔でさりげなくうなずきながらこう尋ねるのだ。
「そのカードはあなたが自由に選んだものですよね?」。
すると相手はどうしても僕のうなずきにつられてうなずき返してしまう。
だからほぼ決まって「はい」と肯定してくれるのだ。
隣の席でも今まさに同じことが起こっていた。
女性はにつこり微笑み二回もうなずいている。
↓ 参考書籍
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