【嘘のカギ】 嘘は「しぐさ」に表れる!

心理・思考・時間

「殺人事件だ!」——僕(著者)のショーでのお気に入りゲームは、舞台袖からのこんなかけ声で始まる。

このゲームでは五人の観客にそれぞれ殺人犯、被害者、目撃者、愛人(犯行の動機と関わりがありそうだ)、それにミステリーに欠かせない庭師という五つの役を演じてもらう。

僕と客席のお客さんは、誰がどの役を演じているかを推理する。

ゲームに参加している五人は、賞金のために嘘をついて僕の推理をかく乱しようとする。

普通のミステリーのように庭師が犯人で即解決、とはいかない。

嘘。

僕はそれを知り尽くしている。

なにしろ長年マジシャンをやってきたのだ。

マジックというのは、どんな演目もつきつめれば「嘘」なのだ。

嘘を見破るのはとても難しい。

ほぼ不可能なことも多いだろう。

だが、意外と見逃されがちな事実だが、うまく嘘をつくことも、じつはそう簡単ではない。

誰かを欺くには、それらしい表情をつくりながらしゃべらなくてはならない。

一方、本当のことを言うときは単に事実を思い出せばいいので、そんなに複雑ではないはずだ。

嘘をつくとき、僕たちはたいてい自分の身振りに気を配り、意識してコントロールしようとする。

嘘か見抜かれないように、どう手を動かせば怪しく見えないか、アイコンタクトの長さはどれくらいがいいか、いろいろと考える。

すると身体言語には何らかの変化が生じる。

そして聞き手は、身体言語と実際に話された言葉とが食い違っていると、本能的にそれに気づくものなのだ。

100パーセント嘘を見抜ける確実なサインは存在しない。

だが参考になるヒントならある。

嘘を見抜くときに注目すべきは、あらゆる「しぐさ」だ。

身体だけでなく、話すテンポや声の調子、言葉の選び方なども重要なポイントとなる。

微妙な違いを読み取ってほしい。

もちろん、誰かの嘘を見破ろうとするときは、その人の普段のしゃべり方などを先に知っておく必要がある。

相手の身体言語がこのベースライン(普段のしぐさ)からそれたら、注目をする必要がある。

その人には何かが起こっている。

ひょっとしたら、嘘をついているのかもしれない。

嘘を見抜く力を身につけたければ、まずは相手の話を注意深く聞いてみよう。

相手の口調に何か変化はないか?

声の高低がめまぐるしく変わっていないか?

話すテンポは速いか、遅いか?

急に咳払いが増えてはいないか?

こうした現象はどれも、相手の心の中で何かが変化したことを示すサインだ。


たとえば、若い男の子が親に「夜11時には必ず家にいるよ。約束する!」と言うのを聞いたとしよう。

このとき、先ほどのサインがどれか一つでも聞こえたら、この若者が約束を守るかどうかは疑わしいところだ。

もう一つ例を挙げよう。

友人をパーティーに誘ったら、残念だけど行けないと断られてしまった。

だが、もし友人が答える直前に咳払いをし、少しどもったとしたら、どうだろう?

「ああ、えーと……(咳払い)今日はちょっと体調が悪くて、その・・・」

これはどうも怪しい気がする。

たしかに、こうしたサインはどれも確実なものではない。

相手が嘘などついていないことだってあるだろう。

ただ僕にとっては、これらは少なくとも警告のシグナルだ。

これが耳に入ったら、より注意深く耳をすますことにしている。


【左手で唇を触ったら嘘のサイン】

また、嘘をついている人は普段より笑顔が増え、自分に触れる回数が多くなる。

特に、鼻と口を触る人が多い。

まるでたった今発した言葉を口の中に押し戻したいとでもいうように、唇に触れるしぐさが見られる。

ちなみに、このしぐさはほぼ例外なく左手で行われる。

その人が右利きでも左利きでも関係ない。

なぜかは僕もよくわからないのだが、ショーで数えきれないほど見てきたのでたしかな話だ。

嘘をつくときに唇に触れるのは緊張のためだろう。

ただ、この行動は不安を表している場合もある。

心理学者のポール・エクマンは、こう書いている。

「自分の言うことを信じてもらえないのではないかという不安と、嘘がばれるのではという不安は、見た目上まったく同じである」


【嘘をつくときに「増える」あるものとは?】

「僕がクリスマス用に買ったヌガーは、どこにいったんだ?」。

毎年クリスマス時期になると、僕は必ずこの質問を口にする。

ハーフェナー家の恒例行事だ。

僕がヌガーを買っておくと、家族のうちの誰かがそれを僕に見えないように食べる。

僕はそれが誰かを当てるのだ。

今ではすっかりクリスマスに欠かせないゲームである。

では、僕はどうやってヌガーを食べた犯人をつきとめるのか?

たいていは口もとを見ればすぐわかる。

口がぴ<ぴくしているから?

いや、違う。

もっとずっと単純な理由だ。

犯人の口には、ヌガーの残りかすがついている。

もちろん、これだって立派な身休言語だ。

さらに、誰かがヌガーよりもっと大事なものをこっそり食べてしまったとしよう。

その罪悪感は、感情面でストレスとなる。

すると、それは身体にも緊張という形で表れる。

心の中で緊張していると、身体のどこかも同じく緊張してしまう。

イギリスの行動学研究者デズモンド・モリスは著書「マンウォッチングー人間の行動学」(小学館)で次のような実験を紹介している。


新米の看設師たちに「患者に嘘をつく能力を試す」という名目で嘘の話をさせた。

すると看護師全員が、嘘をつくときにある共通のサインを示したのだ。

本当のことを言っているときはまったく見られない特徴だった。

そのサインを以下に紹介しよう。

ポイントは「増える」だ。

・手の動きが増える。

・自分の顔に触る回数が増える。

・椅子の上で座り直す回数が増える。

・肩をすくめる回数が増える。

ビル・クリントンは「モニカ・ルインスキーと性的関係にあったのか」と問われたとき、26回も自分の鼻に触れたという。

「ピノキオ効果」とも呼ばれるこのしぐさを科学的に研究したのが、アメリカの精神科医アラン・ヒルシュとチャールズ・ウォルフだ。

彼らの研究によれば、嘘をつくと僕たちの身体にはあるホルモンが放出される。

その作用によって鼻周辺の血行がよくなり、かゆくなるのだ!

これは子どもでも同じである。

逆に「減る」ものもある。

言葉だ。

イギリスの心理学者でプロのマジシャンとしての経歴ももつリチャード・ワイズマンは、別の「嘘のサイン」を発見した。

嘘をついている人は言葉数が少なく、一方で不自然に細かいことを「覚えて」いるのだ。

これに対して真実を言っている人は、言葉を尽くして説明をするが、覚えていないことは素直にそう言う。

ところで、「嘘をつくとまっすぐ相手の目を見られず、視線をそらしてしまう」とよく言うが、あれは間違いだ。

それどころか本当はむしろ逆である!

思考をめぐらし考えを言葉にするとき、僕たちは普通頻繁に視線をさまよわせる。

ところが、嘘をついている人は前もって言うべきことを準備しているため、視線をさまよわせて考える必要がないのだ。

事実、相手の目をまっすぐに見ながら嘘をつくことはとても簡単だ。

実際にやってみればわかる。

パートナーの目をじっと見つめながら、こう言ってみよう。

「エッフェル塔はロンドンかあにあるんだよ」。

あるいは「お義母さまがうちに来てくれたらうれしいわ」とか、「これ、ずっと欲しかったんだ」でもいい。

おそらく、すんなり嘘がつけたことだろう。


【自分勝手な人に共通する4つのしぐさ】


ある特定の身振りを組み合わせて行うと、知らず知らずのうちに悪い印象を与えてしまうことが、ノースイースタン大学のアメリカ人心理学者デイビッド・デステノの研究からわかっている。

それによれば、次の4つの身振りをすべて行うと相手は無意識のうちに大きな不信感を抱くのだそうだ。

・自分の手を触る。

・顔を触る。

・腕を組む。

・後ろに寄りかかる。

一つひとつの身振りは、どれもまったくおかしなものではない。

ところがこれが全部合わさると、一気に危険なカクテルとなる。

この4つの身振りを一緒に行う回数が多ければ多いほど、相手はあなたを自分勝手な人だと感じ、信用しなくなるのだ!

しかも実験ではなんと、ロボットと対話するのだが、ロボット相手でも同じことが起こったという。

その際、ロボットにこの4つの身振りを続けて行わせる。

すると驚いたことに、被験者はロボットに対してさえ「自分をだまそうとしているんじゃないか」という疑いを抱いたのだ。

したがって、他人から信用されたいならば、自分の手をいじってから顔を触り、腕を組みつつ後ろに寄りかかる・・・などという動作は絶対に避けたほうがいい。

↓ 参考書籍

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