【腸内細菌の役割】 体も心も腸内細菌が決める

健康 ・睡眠・美容


私たち1人ひとりは、それぞれ異なる腸内フローラのタイプを持っています。

さらには、1人の人間の腸内でも毎日少しずつ変化しています。

生まれたときに親から受け継いだ細菌と、成長過程で、体内に取り入れた細菌が最終的に生き延びて、その人固有の腸内フローラを形作っているのです。

太っている人と痩せている人では腸内細菌の構成が違います。

腸内細菌は私たちの体質にも関係していて、食生活の傾向や、なりやすい病気の傾向などを調べていくと、同じような食生活の人や病気の人では、腸内フローラのパターンが似ているのではないか、といった研究も始まっています。

例えば便移植。

日本でも、健康な人の便を、潰瘍性大腸炎の患者さんに移植する臨床試験が始まっています。

抗菌剤併用療法という方法があり、その方法では、抗菌薬を投与して、いったん患者さんの腸内フローラをリセットしてから、健康な人の腸内細菌を大腸内に内視鏡で入れてあげます。

すると移植した細菌が、より定着する可能性があるのだそうです。

こうした便移植で、腸の重い病気や肥満や糖尿病が治療できると考えられています。

女性の更年期(閉経をはさんで前後10年くらい)の現れ方も、腸内細菌によって異なる可能性が出てきました。

更年期の女性は、女性ホルモンの分泌が急激に低下していくことから、ホットフラッシュ、肩こり、便秘、不眠、抑うつ症状など、さまざまな不調が現れることがあります。

日常生活が送れないほどのつらい症状は更年期障害と呼ばれ、治療が必要になることもあります。


そこで注目されているのが「エクオール」という物質です。

大豆イソフラボンをエサにして腸内細菌が作る代謝物で、エストロゲンという女性ホルモンに似た働きをすることがわかりました。

エクオールは、更年期のさまざまな症状を和らげるほかにも、骨粗しょう症の予防と改善、皮膚や血管の健康を保つ、コラーゲンを増やしてシワを予防する、メタボ対策にも有効など、女性の若々しさや健康維持によい働きをしてくれます。

ただし、腸の中にエクオール産生菌を持つ人は、日本女性で2人に1人。

若い人では、さらに少ないといわれています。

大豆食品を日常的にとってきた日本人は、欧米人に比べるとエクオール産生菌を持つ人が多いのです。


腸内細菌は、生まれ育った環境や人種によっても違うことがわかりますね。

エクオール産生菌を持っているかどうかは、尿検査でわかります。

また、エクオールのサプリメントが開発されていて、体の外から補うこともできます。


「心」と腸内フローラについても、少し説明しておきたいと思います。

じつは、「腸内の善玉菌(ビフィズス菌、乳酸拝菌)が少ないと、うつ病のリスクが高まる」ということが、国立精神・神経医療研究センター神経研究所を中心とする共同研究グループによって明らかになっているのです。

また、善玉菌の少ない人と過敏性腸症候群のようなストレス性心身症との関連も見られることがわかっています。

腸内細菌が作る物質には、神経細胞を刺激するものが数多く存在し、それが脳に伝わり、感情などに影響を与えると考えられています。

私たちのやる気や喜び、幸せ感を支配しているのは、脳であり、腸であるということですね。

困ったことに、日本人の食物繊維摂取量は、戦前の3分の1に減っていて、これが腸内環境の乱れの原因の1つになっています。

近年、日本でうつ病患者が増えていることと、無関係ではないかもしれません。

折れない心と病気に負けない体、その両方に腸内フローラが関係しています。


私たちの体調や、体質やメンタルの状態までを、腸内細菌が決めているかもしれないと思うと、腸や腸内細菌のことがとても大切なものに思えてきませんか。

【腸は血液の質を決める】

腸とあわせて、私たちの健康長寿のカギを握っていることを忘れてはいけない重要な器官。

それは「血管」です。

日本人の死因の1位はがんですが、2位は心疾患(心臓病)、3位は脳血管疾患(脳卒中)。

心臓病と脳卒中はともに血管の病気であり、「血管死」とも呼ばれます。

血管は、残念ながら加齢や生活習慣によって、知らず知らずのうちに老化していきます。

血管が老化して詰まったり硬くなったりもろくなったりすると、やがて動脈硬化を引き起こし、脳出血やくも膜下出血、心筋梗塞などを招くこともあります。

血管年齢を若く保てるかどうかが、いかに命を左右するかということがわかるでしょう。

体を守るために、血管の健康を守ることは非常に重要なわけですが、じつは、ここにも腸の機能が大きく関わってきます。

血管年齢を若いままキープするためには、詰まったり硬くなったりしないよう、血液をサラサラと流しておくことが大切です。

血管の中身である、「血液の質」も重要、ということです。

そして、腸内環境は、この血液の質にも影響を及ほしているのです。

便が腸に長く滞留すると、有害物質を発生させ、悪玉菌が増えて腸内環境が悪化します。

腸内に発生した有害物質は、腸壁から血液に取り込まれます。

便秘や下痢などで腸が整っていないと、血液はドロドロと汚れた状態に。

それが、全身に運ばれることになってしまうのです。

便秘になると肌が荒れるのも、このことが原因です。

つまり、血液の質を上げるためには、腸内環境をよくしておくことが非常に大切だということです。

汚れた血液は肝臓や心臓などの臓器にも負担をかけます。

小腸は栄養吸収の場所ですが、小腸から吸収した栄養(血液)は、門脈を通って肝臓に運ばれます。

肝臓は、運ばれてきた血液から有害物質を分解・無害化したり、栄養をエネルギーなどに作り替えて各臓器へ送り出す役割を担います。

ところが血液が汚れていると、肝臓の仕事が増えてしまううえに、栄養を各臓器へうまく届けられなくなってしまうのです。

反対に腸の環境がよくなり血液の質を上げられると、肝機能、腎機能を健やかに保つことができます。

血糖値やコレステロールなどの数値がよくなるということも起こります。

また、血液の流れをコントロールしているのは自律神経です。

私たちの自律神経には交感神経と副交感神経があり、この両者は常にどちらかが少し高い状態(優位)を取りつつ、バランスを取りながら働くのが理想です。

リラックスしているときには、副交感神経が優位になり、血管を広げます。

特に末端の血管が開くことは、血流をスムーズにするために大切です。

反対に、興奮したり緊張したりしたときには交感神経が活性化され、血管が収縮します。

強いストレスによって血管が収縮して急激に血圧が上がると、もともと老化によってもろくなっていた血管は、最悪の場合は切れて、突然死にもつながります。

血管の老化を防ぐためには、交感神経が高い状態のままになることを避けたいのですが、現代人はストレスにさらされることが多く、交感神経が優位な人が多いようです。

じつは、副交感神経が下がることは、腸の機能の低下につながります。

その結果として、血液の質の低下につながってしまいます。

そう、体はすべてつながっているのです。

↓ 参考書籍

コメント