【心を動かす思考法】 他人を巧みに導く9つの戦略

心理・思考・時間

【クリティカル・シンキングで洗脳を防ぐ】

「洗脳」と「クリティカル・シンキング」は一見、関係なさそうですが、その印象は大間違いです。

洗脳の定義をひと言でいうと、「ものごとの見方をひとつに強要されること」だからです。

教祖の言葉だけに従うカルト宗教、トップの行動が絶対の規範になる独裁国家、暴力思想を叩き込まれるテロ組織など、偏った組織では必ず滴定の方向に思考を矯正されます。

そこに自分の意志が働く余地はありません。

その一方で、クリティカル・シンキングには「複数の視点を持つ」という要素がふくまれます。

ひとつの思考にとらわれず、あらゆる方向からものごとを見つめるのがクリティカル・シンキングの大前提です。

その点で、洗脳とクリティカル・シンキングは同じコインの表裏のような関係にあります。

つまり、クリティカル・シンキングを学んでおけば、こちらを洗脳してくる相手に気づけるわけです。

「自分には洗脳など関係ない」と思われるかもしれませんが、私たちの身のまわりには洗脳が溢れています。

もちろんカルト宗教や独裁国家レベルの洗脳に出くわすケースは少ないでしょうが、ネットの噂やニュースに流されたり、世の中の空気に振り回されて大事なことを決めてしまう人は少なくありません。

企業のマーケティングや教育の世界など、無意識に私たちの心を操ろうとする組織や団体は無数に存在します。

そこで、よく使われている9つの洗脳テクニックをご紹介致します。

洗脳テクニックの存在を知っておくと、世の中の裏側が読みやすくなりますし、悪用すれば他人を思うがままに動かすこともできます。

くれぐれも悪用厳禁で、自分の身を守るための知恵としてお使いください。

相手の信頼性を下げる【ネーム・コーリング】

「ネーム・コーリング」は、特定の人や人物にネガティブなラベルを貼りつける技法です。

例えば、次のような会話があったとします。

A「金持ちはもっと貧しい人たちにお金を分け与えるべきだ!いまは一部の人間が富を独占しすぎている!」

B 「そうは言いますけど、あなたはこのあいだ高級な車を買ったばかりじゃないですか。そんな人がする主張は信用できませんね」

A「私の車と主張は関係ない!」

これは、Aさんの言葉が正しく、「富の分配」と「高級車の購入」にはなんの関係もなく、それで主張の正否は判断できません。

しかし頭でわかっていても、反射的にAさんの言葉に疑いを持ってしまう人は多いでしょう。

大半の人が「お前が言うな!」と思ってしまうはずです。

このようにネーム・コーリングは相手の信頼性を下げる働きが強く、討論の場などでもよく見かけます。

2020年のアメリカ大統領選挙で、民主党側が「トランプは汚い差別主義者だ!」と敵陣営をののしり、共和党側は「バイデンは卑屈な中国の犬だ!」と返したのも、ネーム・コーリングの典型的な例です。

不用意にネーム・コーリングに乗ってしまうと、こちらがどんどん不利な立場に追いやられてしまいます。

佐藤さん

上記の例でいくと、論点をずらしてAさんの「揚げ足をとる」ような感じですかね。職場でもこのような人がいますね・・・不意に乗ってしまって論点の違う、討論にならないようにしましょう。

・相手のネーム・コーリングへの対処法

もし、相手がネーム・コーリングを使ってきた場合は、次のように行ってみてください。

・論点のズレを指摘する。

・ネーム・コーリングを指摘する。

特にネーム・コーリングをしてくる相手はそもそも論点のズレを認識できない、できていない場合が多いため、一段上からの視点で現状を説明した方が効果的なことがあります。

相手の気分を持ち上げる【グラッドワード】

「グラッドワード」は、道徳的な言葉を多用して相手の気分を持ち上げる方法です。

人間なら誰しもいい人だと思われたいし、道徳的に正しい人間だという印象を与えたいものです。

「俺は道徳など気にしない」などとうそぶく人もいるでしょうが、そんな人でも、自分にとって大事な相手から悪く思われればネガティブな気分になってしまうでしょう。

グラッドワードのメリットは、裏づけとなる情報や理由がなくても、言葉に説得力を持たせられることです。

「あなた方は優秀だ」や「これから希望に満ちた時代がはじまる」などと言われれば、すぐに納得はしないにしても悪い気持ちはしないでしょう。

その積み重ねにより、少しずつ浸透していくのがグラッドワークの恐ろしさです。

「この時計は一流の男にふさわしい」

「すべてを凌駕する完璧なコーヒー」

「この本が1冊あればすべてうまくいく」

といったように、きらびやかなフレーズを多用して、何となく私たちをいい気分にさせてきます。

もし、グラッドワークを使う人や商品に出くわしたときは、「とにかく具体的な事例を3つ教えてください」や「端的に言ってください」とだけ訪ねてください。

自分の権威を高める【トランスファー】

「トランスファー」は「転送」を意味する英単語で、ポジティブなシンボルを使って自分の権威を高めるテクニックを意味します。

アメリカの政治家が演説する背景に大きな星条旗をあしらっておくような行為は、トランスファーの代表的な行為です。

多くのアメリカ人にとって星条旗は偉大なシンボルなので、背景に国旗を貼っておくだけでもポジティブな雰囲気が生まれ、自分の話を受け入れてもらいやすくなります。

このように、世間的にいい印象があるものを使えば、たいして根拠がなくても説得力が上がるのがトランスファーの恐ろしいところです。

具体的な例を上げてみます。

・白衣を着た俳優が「この鎮痛剤をおすすめします」と宣伝する。

→「白衣」=「専門的な知識が豊富」といったパブリックイメージを鎮痛剤に転送し、権威を高めています。

・大自然のなかで女優が美しい髪をなびかせるシャンプーのCM。

→「大自然」=「天然で混じりっけがない」という自然のいいイメージを商品に転送させている。

・「東大生に一番読まれた本」という書店のPOP。

→東大の権威を書籍に転送させて、内容を権威づけています。

トランスファーが絶対に悪いとは言いませんが、いずれも商品やコンテンツの実態を正しく表していない点は同じです。

トランスファーの魔力に立ち向かうためには、次のような自問自答をおこなうようにするといいでしょう。

・「話し手の提案」をもっとシンプルな言葉で表現すると、どうなるだろうか?

・話し手は、どのような権威やシンボルを使っているだろうか?

・話し手の提案と、そこで使われている権威やシンボルに正当なつながりがあるだろうか?

・その提案だけを見た場合、私にはどのようなメリットがあるだろうか?

佐藤さん

トランスファーの効果を利用してCMなんかも作られているのでしょうね。知らないうちに「トランスファー効果」に洗脳され、商品を手にしているのかもしれません。

同じものであるかのように提示【偽のアナロジー】

「偽のアナロジー」は、実際に類似として使えないものを、同じものであるかのように提示する手法です。

A「私はBさんと同じぐらい働いているし、ノルマの達成率は上回っている。それなのに彼だけ給料が上がっているのは理解できない。私も同じ額をもらうべきだ」

一見すると、Aさんの発言に正当性があるようにも思えます。

本当にAさんのレベルで働いているなら、Bさんと同じ給料をもらわないと不公平でしょう。

しかし、少し考えて見れば、Aさんの発言には無理があることがわかります。

確かに労働量は大事ですが、給料アップの基準になるのはそれだけだはありません。

同僚とのチームワーク、交渉力、取引先からの評判など、サラリーマンの評価を定める要素は他にも無数に存在します。

それらのポイントを無視して、「労働量が似ている」という点だけを批評の材料に使うのは間違いでしょう。

このように、本当は似ていないポイントを、あたかも同じであるかのように扱うのが「偽のアナロジー」です。

他にも、ネットのグルメ評価サイトなども典型的です。

ワンコインでおいしい料理を出す料理屋と、1人5万円以上をとる高級店を「5つ星」で同じように比べたところで、なんの参考にもなりません。

500円払って5000円分の価値があるご飯が食べられればとても嬉しいでしょうし、3万円を出して5000円分の食事しか出なかったら怒りを覚えるでしょう。

根本の条件が違うのに一線に並べても意味はありません。

もしなんらかの比較を見たら、「これは本当に関係があるもの同士を対比しているのか?」「一部の類似点だけを抜き出して比べてはいないか?」と考えて見ましょう。

それだけでも「偽のアナロジー」の影響に強くなるはずです。

ビックネームに推奨してもらう【テスティモ二アル】

「テスティモ二アル」は証明や証言を意味する英単語で、洗脳テクニックの世界では「ビックネームに自分の意見やアイデアを推奨してもらう手法」を意味します。

コマーシャルや政治などの世界で定番のテクニックです。

近年では有名人のツイッターやインスタグラムで商品を紹介してもらうのが当たり前になり、ちょっと前には、芸能人や有名なブロガーが「血液クレンジング」を一斉に推奨して炎上騒ぎになったことがありました。

血液クレンジングには科学的な正当性がないにもかかわらず、「疲れをとるために最高」や「身体のメンテナンスに最適」といった芸能人の投稿が相次いだのです。

有名人の推奨だからといって効果が保証されるわけではないことは誰にでもわかる話でしょう。

血液クレンジングの専門知識を持った芸能人など、ほぼいないはずです。

しかし、そうは言っても頭と体が裏腹に動いてしまうのが人間です。

「これは芸能人を使ったステルスマーケティングだろう」とわかっていても、あなたの尊敬する人物が発言した場合は、心の片隅でポジティブな印象を抱いてしまうものなのです。

なお、テスティモ二アルに使われるのは有名人だけではなく、「法律家」や「医師」のすすめ、など漠然とした「権威」を持ち出して、聞き手が内容の信憑性を鵜呑みにしていまうこともあります。

こういった仕掛けに出くわしたときに、次の質問を自分に投げかけてみてください。

・この人物(組織や権威)が、問題となっているテーマについて専門的な知識を持っている、または信頼できる情報を持っていると考えるべきな理由はあるか?

・この人物(組織や権威)の証言を省いた場合に、そのアイデア自体にはどれくらいのメリットがあるだろうか?

佐藤さん

テスティモ二アル はテレビのCMなんかでよく使われていますよね。まぁ、騙されないとは思いますが、鵜呑みにしないできちんと調べてから行動に移すべきですよね。

自分の平凡さを強調【庶民派アプローチ】

「庶民派アプローチ」は、「私は皆さんと同じ一般庶民です」や「私もあなたがたと同じ悩みを抱えているんです」といったように、自分の平凡さを強調して親切さを上げる手法です。

政治家や芸能人に好まれる手法で、歌姫と呼ばれる歌手がカップラーメンの話をしたり、資産家のインスタグラマーが薬局の特売日を喜ぶ投稿をしたり、セレブが一般人に近い存在をアピールする事例はいくらでも見つかります。

この手法が効果的なのは、私たちには、自分に近しい人ほど親しみを覚える心理があるからです。

初対面の相手が同郷だとわかった瞬間から、急に距離が近づいたような感覚が生まれるのはよくあることです。

この現象を使って、セレブや政治家は自身の好感度を高めようとするわけです。

この効果は思うより強く、歴代のアメリカ大統領はみな「庶民派アプローチ」の達人でした。

マクドナルドで食事をする姿をアピールしたビル・クリントン。

ブロッコリー嫌いを告白して親しみやすさを上げたジョージ・ブッシュ。

マキ割りの姿を何度も報道させたロナルド・レーガン。

みんな巨額の富を持つ資産家だったにもかかわらず、ことあるごとに庶民派の姿を宣伝していました。

事情は日本でも変わらず、最近では総理大臣がパンケーキを食べる姿が話題になったこともありました。

さらにもうひとつ、「過去の苦労話」も庶民派アプローチの定番のテクニックです。

ジミー・カーター元大統領が貧しいピーナッツ農家の出身を強調し続けたように、自分がどれだけ過去に苦労したかを強調するのも好感度アップに大きな効果を持ちます。

庶民派アプローチをする話し手に出会ったときは、次の質問を自分に投げかけてみてください。

・この話し手の「主張」と「キャラクター」を切り離した場合、その主張にはどのような価値があるのだろうか?

・この話し手は、一般人との近さを装うことで何を狙っているのだろうか?

都合がいいとこだけを強調【カード・スタッキング】

「カード・スタッキング」は、情報の都合がいいとこだけを強調し、都合が悪い側面は隠して議論を組み立てる手法のことです。

正しい判断に必要な情報が提示されないため、見破るのがもっとも難しいテクニックです。

よくあるのは商品販売の事例で、さんざん自社製品の性能をアピールした後で、「いまご購入いただくともうひとつオマケでついてきます」などと切り出す手法を見たことがある人は多いでしょう。

佐藤さん

テレビのCMはほとんど、これに当てはまるか、これに類似したものばかりですよね。

ここでおこなわれている「カード・スタッキング」は、「型落ち商品である事実を隠す」というもの。

無料で追加の商品をもらえると言われれば誰でも心が動くものですが、その裏では、数世代前の古い機種を大量に仕入れ、型落ちの事実を伏せたまま宣伝しているのです。

この事実を知ったうえで購入にふみきる消費者は少ないはずです。

カード・スタッキングを行う人たちは、デメリットを隠してこちらに夢だけを見せてきます。

人間は自分が信じたいものを信じる生き物なので、相手に夢さえ見せてしまえばいかようにもコントロールができるからです。

重要なのは、相手がなにを見せているかではなく、なにを見せていないかです。

自分の身を守るためには、大事な決定を下す前にできるだけ多くの情報を得るしかありません。

こちらに夢や希望を与えてくるような情報に出くわしたら、次のような質問を自分にしてみてください。

・事実が歪曲されたり、省略されたりしてはいないか?

ポイントを強調させ説得【バンドワゴン】

バンドワゴンは「みんながやっているから」というポイントを強調することで説得力を持たせる技法です。

・発売1週間で10万部突破!

・ツイッターで50万ツイート!

・当店で売れ行きナンバーワンの機種です!

・在庫希少!売れきれ間近です!

などの売り文句はすべて、バンドワゴンの典型例です。

「たくさんの人が支持しているなら間違いないだろう」と思ってしまう人間の心理を使い、あなたをコントロールしようと狙っているわけです。

バンドワゴンの効果は何度も実証されており、心理学者のソロモン・E・アッシュがおこなった実験では、研究チームが雇った3人のサクラに空を見上げさせたところ、そこを通りがかった人たちの6割が同じように空を見上げ続けたそうです。

たとえ理由がわからなくても、他の人が空を見上げていたら、大多数の人は同じ行動を取ってしまうものなのです。

近年ではバンドワゴンの主戦場がSNSに移り、フォロワーを金で買うセレブやインフルエンサーがあとを絶たないのは皆さんも知っていると思います。

もしバンドワゴンを使ってくる人が、現れたときに次の質問を自分に投げかけてみてください。

・他人(みんな)が支持しているという事実は置いておいて、私は話し手の主張や提案を支持するべきだろうか?

・話し手の主張や提案に賛成できる点、賛成できない点はどこだろうか?

2つの選択肢だけを提示して判断を迫る【白黒思考】

「白黒思考」は、実際には他にも選択肢があるのに、2つの選択肢だけを提示して判断を迫る手法です。

たとえば「YouTubeはもう参加者が多すぎて、これ以上の再生回数のアップは望めません。このまま続けていても収益は下がっていくばかりです。新しいメディアを見つけなければ、もう先はないでしょう」

確かに現在のYouTubeは参加者の数が飽和状態にあり、ひとつのチャンネルあたりの再生回数も低下傾向にあります。

しかし、本当に「YouTubeを続けるか、止めるか」の二択しかないかといえば、そんな事もないはずです。

よく調べれば現在のチャンネルに改善の余地が見つかるかもしれません。

この世に白か黒かで決着がつくような問題はほとんどなく、たいていは第三、第四の道もあるはずです。

そんな代替案の存在を無視してこちら側の思考力を奪ってしまうのが、「白黒思考」の恐ろしさです。

その他にも「私と仕事、どっちが大事なの?」「反原発の活動に疑問があるということは、君は原発推進派だな?」「経済学が未来を正確に予想したことはない。つまり、経済学は学問の名に値しないということだ」

いずれの発言も、ものごとを強引に2つに分けて、それ以外のグレーゾーンを認めていません。

本来は別の答えもあるはずなのに、2つの選択肢だけから選ぶように迫って、相手の思考力を奪おうとしているのです。

白黒思考が洗脳に効くのは、相手に即断即決を迫ることが可能だからです。

白黒思考は私たちの視野をせばめてしまう効果がありますので、相手の強弁に流されないためにも、なにか重大な決断を迫られたときは「これは白黒思考になってないか?」と自問自答して考えてください。

↓ 参考書籍

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