一点集中タスク術

食事・運動・仕事


【同時進行がミスの元】

ミスを減らすためには、ワーキングメモリを鍛える努力を続けていくことが重要です。

運動や読書などさまざまな方法で、ワーキングメモリは鍛えられますが、短時間で見覚ましくワーキングメモリの容量を高めることは簡単ではありません。

そのため、当面は今の自分のワーキングメモリを効率的に使っていくことが、インプット・ミスを減らすための重要な課題となります。

これは、脳に負担をかけない、脳のリソースを有効活用する、ということです。

そのためには、「マルチタスク」をしない、ということが重要です。

最近のパソコンは性能がいいので、このようなケースは少なくなりましたが、昔は、ソフトウェアを3つ立ち上げると、途端に処理速度が遅くなり、4つ目のソフトを立ち上げた瞬間に、画面がフリーズしてしまう、ということはよくありました。

それと同様のことが、私たちの脳でも起こります。

一度に、複数のことを処理しようとすると、脳の処理速度が遅くなり、余計に作業時間がかかるだけでなく、脳の情報処理の許容度を超えた瞬間、ミスが発生してしまうのです。

同時に複数の仕事をこなすことを「マルチタスク」と言います。

「マルチタスク」とは、「仕事に関するメールを打ちながら、大切な得意先との電話連絡をする」「企画書を作成しながら、部下から重要なプロジェクトの進行具合の報告を聞く」などといったように、複数の仕事を同時進行する行為です。

最近の脳科学研究では、「人間の脳はマルチタスクができない」と言うことが明らかになっています。

たとえば、「ながら勉強」、テレビを見ながら、勉強するというようなケースです。

この場合、「テレビを見る」のと「勉強をする」という行為を同時進行しているわけではなく、すさまじいスピードで脳内のスイッチを切り替えながら、2つのタスク処理を行っているにすぎないのです。

こうした「切り替え」を何度も行っていると、脳に猛烈な負荷がかかるとともに、脳の処理能力も低下していきます。

たとえば、ロンドン大学の研究によると、作業中にメールや電話を確認するなどのマルチタスクを行うと、IQが10ほど低下する結果となりました。

なお、この数値は、マリファナを吸引したときの2倍に匹敵する、と報告されています。

その他にも、こうしたマルチタスクを続けると、ストレスホルモンが分泌されるという研究もあります。

ストレスホルモンは、脳内で記憶を司る海馬に対して著しい悪影響を及ぼし、記憶障害の原因になります。

長期にわたってストレスホルモンが盛んに分泌されると、海馬の委縮が起こります。

そして、ストレスホルモンが増えると、不注意やど忘れの原因にもなります。

また別の研究によると、1つの課題に集中して取り組めない場合、その課題を完了するのにかかる時間は50%も増えるということがわかりました。

加えて、間違いをする確率も、最大50%も高くなるのです。

2つの似たような作業を同時に行わせた場合、効率の低下は50%ではなく、80~95%も低下した、という研究報告もあります。

つまり、マルチタスクをする場合、2つのことを別々に行う場合よりも時間がかかってしまうのです。

さらに間違いやミスをする確率も1.5倍に跳ね上がります。

私たちが日頃「早く終わらせよう」「効率的だ」と思って、ついついやってしまいがちな、マルチタスク。

しかし、仕事が早く終わることなく、結局、余計に時間がかかってしまうのですから、時間の、無駄としか言いようがありません。

脳に負荷をかけるマルチタスクは、それ自体がミスを引き起こす重大な原因になると同時に、ストレスホルモンを分泌させて脳疲労の原因にもなります。

仕事は同時にやらない、ひとつひとつ順番に片づけていくことが、結局のところ最も効率がよく、ミスを減らすことになるです。

【音楽を聞くと仕事がはかどる?】

「マルチタスク」は仕事の効率を下げる、と言うと、「音楽を聞きながら仕事をするのもダメなんですか?」と思う方もいるでしょう。

「音楽を聞きながら仕事をした方が、仕事がはかどる」「勉強するときは、必ず音楽をかける」という人も多いでしょう。

仕事と音楽についての約200もの論文を分析した研究があります。

それによれば、「音楽を聞くと仕事がはかどる」と結論付けている研究と「音楽を聞くと仕事の邪魔になる」と結論付けている研究の数はほぼ同じだったそうです。

それらの内容を細かく見ていくと、記憶力・読解力に対してはマイナスに作用し、気分や作業スピード、運動などに対してはプラスに作用することが多い、という結果になっています。

特に「歌詞」のある音楽は、言語情報として脳に認識されます。

言葉同士がぶつかりあうので、学習・記憶・読解といった私たちの言語機能を妨害する可能性があります。

外科のドクターに話を聞くと、「手術中は自分の好きな音楽をかけたほうが集中できる」と言う人が少なくありません。

それは、手術が「作業」という面も持っているからかもしれません。

「流れ作業」のラインで音楽をかけて、作業効率をアップさせている会社もあります。

手や体を動かす「作業」「運動」に関しては、音楽はプラスに働くようです。

音楽は、「学習」「記憶」「読解」などにはマイナスに、「作業」「運動」にはプラスに働きます。

あなたの仕事がどのような内容なのかによって、音楽の効用は変わるのです。

【デュアルタスクで能率アップ】

「複数の仕事を同時進行するマルチタスクは脳に悪い」のはお分かりいただけたでしょうか?

一方で「有酸素運動」と「脳トレ」を一緒に行う「デュアルタスク」に関しては、極めて高い脳トレ効果が得られると、最近、精神科医の間でも注目を集めています。

デュアルタスクは、認知症や認知症予備軍である「軽度認知障害」のトレーニングとして高い効果を上げています。

具体的には、ウォーキングマシンや踏み台昇降をしながら、100から3を引き算し続ける方法や、2~3人でしりとりをしながら、ウォーキングする方法などが推奨されています。

この場合、デュアルタスクの課題としては、頭を抱えてしまうような難しい問題ではなく、「簡単な課題」のほうが効果があるそうです。

一方で、運動量としては「中等度」、つまり「やや、きつい」と感じるくらいが、高い効果を得られます。

国立長寿研究センターでは、軽度認知障害の100人に対して、「運動+頭を使う」グループと「健康講座だけ受ける」グループに分けて半年間観察しました。

すると、「運動+頭を使う」グループでは脳の萎縮を防ぐことができ、さらに記憶力が改善したという結果が出ました。

2003年から大分県宇佐市安心院町で行われた認知症予防活動「安心院プロジェクト」では、デュアルタスク能力を上げる活動を定期的に行うことで、参加者の9割で脳血流量が上がり、軽度認知障害かた正常に戻った、という効果が得られています。

軽度認知障害から認知症に進行する率は、対象群の5分の1と、高い認知症予防効果も得られました。

つまり、「運動」+「認知課題」のデュアルタスクを行うと、前頭葉の血流が増えるのです。

前頭葉というのは、注意力・集中力・ワーキングメモリとも関連する部位です。

ですから、デュアルタスク・トレーニングは、認知症や軽度認知障害になった人だけではなく、健康なビジネスパーソンにとっても、効果的な脳トレといえます。

たとえば、スポーツジムでウォーキングをしている人の中には、スマホで音楽を聞いたり、テレビを見たりしている人が多いのですが、さらに脳トレを考えるなら「英会話の音声を聞く」というのもいいでしょう。

最近では、歩きながら会議をする会社もあるそうですが、歩きながら考えごとをすると、非常にいいアイデアが浮かぶ、というのもよく言われることです。

皆さんの中にも、30~60分のウォーキングやジョギングを習慣にしている人は多いと思います。

単に運動するだけでも脳トレ効果は得られるのですが、そこに「頭を使う」(認知課題)を加えることで、さらに「脳トレ」効果が高まるのですから、デュアルタスク・トレーニングを活用しない手はありません。

↓ 参考書籍

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