仕事におけるミスには、さまざまな要因が関係しているように思えますが、多くの事象を脳科学的に分析すると、ミスの原因は、たった「4つ」しかないことがわかりました。
4つの原因は、「集中力の低下」「ワーキングメモリの低下」「脳疲労」「脳の老化」です。
これらの原因について対処すれば、「ミスをゼロにする」ことも不可能ではありません。
これらの4つの原因について詳しく見ていきましょう。
【集中力の低下】
・「ミス」には不注意がつきもの
まず、そもそもミスとは何でしょうか。
辞書で調べてみると、「不注意を原因とする誤った行動、つまずき」とあります。
じっくり1時間かけて出した結論が、結果的に「間違い」だった場合、普通はミスとは言いません。
本来100%の自分だったらやらないであろう過失や、失敗がミスとなります。
また、「ケアレスミス」「うっかりミス」「不注意によるミス」といった使われ方をするように、ミスとは不注意は、不可分な関係と言えます。
注意散漫な状態というのは、言い換えると集中力が低下した状態です。
ですから、ミスの主要な原因は、「注意力・集中力の低下」と言えます。
「ミスをなくす本」はかなりたくさん出ていますが、それらほとんどが、「注意力・集中力の低下」に対する対処法に焦点をあてて書かれています。
それらの本に書かれている内容のほとんどが、「確認する」「チェックする」「整理する」「片づけをする」などです。
・脳科学的根拠を知れば、集中力低下は防げる。
ミスの原因の1つは、「注意力・集中力の低下」です。
これらは、なぜ低下するのでしょうか?
脳科学的な視点も含めて分析してみましょう。
(1)1日のリズム
集中力というのは、朝が一番高くて、午後、夜と時間が経つにつれて低下する傾向があります。
これはほとんどすべての人間に当てはまる生理的なリズムであり、あらがうことは困難です。
、あた忙しく仕事をしていれば、頭を使えば使うほど集中力は低下していきます。
それは、「疲労」と言ってもいいでしょう。
そして、疲労による集中力低下は、「休憩・休息」によって、ある程度回復します。
集中力にはリズムや波があります。
そのリズムや波に逆らうのではなく、リズムに乗ったり、波に乗ったりすることによって、ミスを減らし、仕事を効率的にこなすことができます。
だからこそ、「ミスをしやすい仕事」を集中力の高い時間帯にこなす、「ミスしにくい単純な仕事」を集中力の低い時間帯にこなす。
たったそれだけでも、ミスをする確率を大幅に減らすことができます。
(2)慢性的な疲労・ストレス
もしあなたが、ここ何週間かずっと仕事が忙しい、毎日23時にならないと帰れない、といった状況が続いている場合、慢性的な疲労が蓄積して、注意力・集中力が持続的に低下した状態に陥っている可能性があります。
特に脳の慢性的な疲労状態を「脳疲労」と言います。
そうした状態では、精神的なストレスがかかっている場合も多く、腎臓のすぐ上にある副腎皮質から分泌されるストレスホルモン(コルチゾール)が上がると、さらに注意力・集中力の低下に拍車がかかります。
慢性的な疲労やストレスを防ぐたまには、自己洞察力を高めて、「自分が疲れている」ということに、あまりひどくならないうちに気付いて、ストレスの原因に対処することが重要です。
早め早めに対策を講じて、ストレスをきちんと整理していくことが必要となります。
(3)前頭葉機能・ノルアドレナリンの低下
注意力・集中力は、前頭葉や脳幹などの脳の複数の部位が関わっていますが、中でも前頭葉の「前頭前野」が、注意力・集中力の防御と関係していると言われています。
前頭前野の血流が低下すると、注意力・集中力が低下します。
たとえば、交通事故などで前頭葉が損傷を受けると、注意力を保つことができなくなる「注意障害」が起こります。
なお、脳から私たちの体の各所へ指令を伝える分子言語である、脳内物質の見地から考えると、「ノルアドレナリン」が注意力・集中力と深く関係しています。
ノルアドレナリンが低下すると、注意力・集中力も同時に低下します。
ノルアドレナリンは、慢性的なストレスや、脳疲労によって低下します。
また「うつ病」の患者さんの脳内では、このノルアドレナリンが枯渇した状態に陥っています。
ノルアドレナリンの不足が徐々に進行して、「うっかりミス」が増えてくる、といった症状が現れます。
これらを防ぐためには、病気の一歩手前である脳疲労の段階で対応すること。
ストレスの原因を早めに解消することが重要です。
(4)ワーキングメモリの低下
脳の作業領域とも言われているワーキングメモリ(作業記憶)。
これが低下すると、脳の作業領域が減ってしまうため、ミスやど忘れが多発します。
同時に注意力・集中力も低下します。
ワーキングメモリを使いこなし、鍛える方法 ← 関連記事
(5)脳の老化
年をとるごとに、用件をうっかり忘れてしまったり、人の名前が出てこなかったりといった「ど忘れ」が増えてきます。
「そろそろ自分もヤバい」と思った方もいるかもしれません。
年をとるごとに、注意力・集中力は低下していきます。
加齢による変化は止められない、と思っている人は多いでしょうが、適切な脳のトレーニングで脳を鍛えることによって、60歳、70歳を越えても、脳をイキイキとした状態に保つことができます。
【ワーキングメモリの低下】
・「ど忘れ」の正体
別の部屋にものをとりに行ったとき、部屋のドアを開けた途端に、「そういえば、何をとりに来たんだっけ?」と忘れてしまう。
そんな経験がありますよね?
こうした「ど忘れ」は誰にでもあると思いますし、こうした「ど忘れ」がたびたび起きると、認知症になったのか、と心配になるかもしれません。
しかし、そうした「ど忘れ」は、認知症とは直接的には関係ありません。
「ど忘れ」した瞬間、歩きながら考え事をしていた、あるいはスマホに気をとられていたなどの理由によって、脳が一時的に情報過多に陥ったのです。
つまり、脳のオーバーフローが、「ど忘れ」の原因と言えます。
人間の記憶力には、膨大な情報を記憶できるポテンシャルを持っていますが、情報入力のための入り口は非常に狭く、たくさんの情報が一気に流れ込もうとすると、脳の入り口で「交通渋滞」を起こしてしまうのです。
脳内には、脳の作業スペース、「ワーキングメモリ」があります。
これは、脳内に入力した情報を、ごく短時間だけ保存し、その情報を元に、思考、計算、判断などの、作業を行うスペースです。
ワーキングメモリでは、数秒から、長くても30秒ほどのごく短い時間だけ情報を保存します。
情報処理が終わると、すぐにその情報は消去され、次の情報が新たに書き込まれていきます。
パソコンでたとえれば、「長期記憶」がハードディスク(HDD)とするなら、ワーキングメモリは、メモリ(RAM)に相当します。
何かを処理する場合、メモリに情報を書き込み、処理が終わるとすぐにその情報は消去され、また別の情報が上書きされていく。
それと同様の情報処理が、私たちの脳内でも、常に行われているわけです。
・「テンパる」とミスしやすい理由
たとえば、今日中に締め切りを迎える仕事が、5件あったとしましょう。
あなたは切羽詰まった状況に追い込まれ、焦りも出てきます。
猛烈なペースで仕事をこなしていかないと、到底終わりません。
もしかするとあなたはパニック状態に陥るかもしれませんが、こんな状態を通称「テンパる」と言います。
こうしたテンパった状態で往々にして、大きなミスが起こります。
しかし、もしその仕事が3件しかなければ、テンパることなく余裕でこなせるでしょう。
テンパるというのは、実は、ワーキングメモリが不足している状態です。
パソコンでいうところの、メモリ不足で動作が不安定になってしまった状態、と言うとわかりやすいでしょう。
脳内に「3つのトレイ」があるとします。
それらの「3つのトレイに書類を入れて、仕事を進める」のと同様のことが、脳の中でも情報処理が行われているのです。
処理が終わったら、トレイから書類が取り出されて、別の新しい書類が入ります。
トレイは3つしかありませんから、同時に5件の書類を処理することは不可能です。
そうなると「処理不能」の状態になってしまいます。
そして、脳がオーバーフローを起こして、「ど忘れ」や「頭が真っ白になる」といったことが起こります。
「ど忘れ」や、追い込まれたときに焦ってミスをしてしまう最大の原因は、このようにワーキングメモリの容量不足にあるのです。
・ミスが増えた時期によって、対策を使い分ける。
「ミスが多い人」には、2つのパターンがあります。
「最近」ミスや不注意が増えた人と、「昔から」ミスや不注意が多い人です。
「最近」ミスや不注意が増えた人の原因は、ほとんどの場合が、先ほど述べた「脳疲労」の可能性が高いです。
しかし、ミスが最近始まったものではなく、「子供の頃からおっちょこちょいで、ミスやうっかりが多い」という人もいるはずです。
昔から「自分は不注意が多いな」と悩んでいる方は、「ワーキングメモリ」の容量が少ない可能性があります。
もしかすると、普通は「3」あるはずの脳内のトレイが、「2」であるこもしれないのです。
仮にそうだとすれば、一度に処理できる情報量が減ってしまいます。
当然、脳の中はいつもあわただしくフル稼働の状態で、「余裕」というものがありません。
ですから、ミスが頻繁に起きてしまうのです。
一方で、いくつもの案件を抱えて、それを次から次へとスムーズに処理していく人もいます。
あなたの職場にも、頭の回転が速く、「仕事ができる」と言われている人が必ずいるでしょう。
そういう人は、「ワーキングメモリ」の容量が人より多いのです。
つまり、普通は「3」あるはずの脳のトレイが「4」あるとしたら、たくさんの案件を抱えていたとしても、混乱することなく次々と仕事をこなしていけます。
さて、あなたは「いつもミスを犯してばかりのダメ社員」と「仕事をバリバリこなすデキる社員」のどちらになりたいですか?また、現在どちら側ですか?
「ダメ社員」と「デキる社員」は決定的に大きな能力差が、生まれつきあるように思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。
「ワーキングメモリ」が、人よりもちょっと多いか、少ないかの違いだけです。
あなたが、仮に「いつもミスを犯してばかりの社員」だったとしても、ガッカリすることはありません。
誰でも、何歳からでも、ワーキングメモリは鍛えることができます。
ワーキングメモリを使いこなし、鍛える方法 ← 関連記事
ワーキングメモリのトレーニングをしっかりと行っていけば、あなたも必ず「デキる社員」に変身することができます。
もしあなたが、最近仕事が立て込んでいる、休日に休めていない、疲労がたまっているといった状況だったとすると、もともとのワーキングメモリが高い人であっても、ワーキングメモリの一時的な低下を招いてしまう可能性があるので、注意する必要があります。
【脳疲労】
・「病気未満」の段階で対策する。
「うっかりミス」は、人間なら誰でも起こすものですが、それが短い期間で、何度も連続して起きているようであれば、注意が必要です。
「以前はこんなにミスをしなかったのに、最近ミスが増えているな」という方は、脳が疲れているのです。
つまり、「脳疲労」が原因で、ミスが起こっていると考えられます。
脳疲労とは、睡眠不足や慢性的ストレス、過度な仕事や運動不足などが重なった、脳が「お疲れモード」の状態を指します。
健康な状態と比べて、脳のパフォーマンスは著しく低下しています。
ほとんどの人が「病気」を2つの区分で考えます。
「健康」か「病気」か。
「不調だけれど、病気というほど深刻ではない」という状態も、「健康」と考えることが多いです。
こうした二元論で考えると、「病気の一歩手前」「病気寸前」の状態も「健康」になってします。
著者は健康状態を4つに分類しています。
「健康」と「病気」の間に「未病」の状態が存在するそうです。
「未病」は病気の一歩手前の状態、「未病」は完全な「健康」の状態ではない状態です。
たとえば、健康診断で「血糖値が少し高い」「血圧が少し高い」と言われる人はすべてこの「未病」の状態です。
それを放置すると、糖尿病や高血圧へと進行していきます。
一方、「健康」よりも、さらに上の状態が存在します。
モチベーションが高く、心技体がすべて充実していて、仕事のパフォーマンスも最高にいい状態。
心から「調子がいい」と思える、「絶好調」の状態です。
このように、調子が悪い状態から順番に、「病気」「未病」「健康」「絶好調」の4つの状態が存在すると考えられます。
これらの4つの状態は、明確に4つに区分されるものではなく、私たちは「健康」の中でも「未満」寄りの状態や「絶好調」寄りの状態へと、日々揺れ動いているのです。
これを脳の状態に置き換えて説明すると、「うつ病」「脳疲労」「健康」「絶好調」ということになります。
「脳疲労」の状態では、注意力・集中力、理解力・記憶力・論理判断力・学習能力など、ほとんどの認知機能が低下します。
これは脳のパフォーマンスが低下した状態、自分の本来持っている認知機能を100%発揮できない状態ですから、結果としてミスが起こってしまうのです。
先ほどの「健康」と同じで、私たちの脳のパフォーマンス、認知機能も日々変化しています。
たった1日、睡眠不足になっただけで、注意力・集中力は大幅に低下し、健康な人であっても多少「脳疲労」に傾いただけで、ミスを起こします。
ですから、「健康を維持する」という消極的な目標ではなく、「健康」よりもさらに上の状態「絶好調」を目指して、生活習慣、自分のコンディションを整えていく、という心構えが重要です。
つまり、「脳疲労」の人は「健康」をめざし、「健康」の人は「絶好調」をめざす。
いまの自分のレベルよりも、1つ上のレベルにレベルアップすることが、脳のパフォーマンスを高めることであり、ミスをなくす抜本的な対策となります。
【脳の老化】
最近、「ど忘れ」や「人の名前が出てこない」回数が、昔と比べて明らかに増えている、という人はいませんか?
こうした状態になると「認知症になったのでは?」と心配する人もいますが、まったく心配ありません。
ワーキングメモリのピークは20~30歳。
つまり、30代後半になると、「人の名前が出てこない」などの「ど忘れ」が誰でも増えてくるのです。
あるいは、年をとると長時間の集中力の維持が難しくなります。
若いころと比べて、体力も衰えますが、集中力を維持する力も衰えるので、結果として年をとるとミスを起こしやすくなるのです。
あるいは、認知症になると、「鍋を焦がす」とか「冷蔵庫にある商品を二重に買ってしまう」といった決定的なミスを引き起こします。
脳の老化は、重大なミスの原因となるのです。
【若々しい脳を維持する秘訣】
「脳の老化は防げない」
ほとんどの人が、そう思っているかもしれません。
「生涯を通じて脳細胞は減り続ける」「毎日、10万個の脳細胞が減り続けて、脳細胞が増えることはない」という話を聞いたことがある人も多いでしょう。
しかし、20年前はまことしやかに語られていたこの説も、現在では間違いであることがわかっています。
脳細胞は1日10万個も死なないし、さらに、「脳細胞は増殖しない」と言われてきましたが、海馬の顆粒細胞は増殖することが発見されたのです。
さらにMRIによるがそう診断の技術の進歩により、「脳の容積が増える」という現象も容易に観察できるようになったのです。
脳機能は、年齢とともに衰えていきますが、それは「脳を使わない人の場合」です。
脳をあまり使わないと、脳の働きはどんどん低下し、記憶力は衰えていきます。
あるいは脳細胞もどんどん死んで、脳が小さく縮んでいきます。
このことを「廃用性委縮」と言います。
高齢者の脳をMRIという断面写真で見ると、委縮していることが多いですし、実際に委縮の程度を定量化すると、加齢とともに脳は、毎年約1%ずつ委縮していくと言います。
しかし、年をとっても脳を使い続けている人は、ほとんど委縮が見られません。
脳を使わない人は、脳がどんどん老化していきますが、脳を使い続ける人は、いつまでも若々しい脳を維持することができるのです。
老化による記憶力の低下には個人差があり、高齢者の中に記憶力がほとんど低下しない人がいることは事実なのです。
【何歳でも脳は成長し続ける】
「成人以降は、脳は成長しない、老化によって機能が失われていくだけ」という考え方は、現在の脳科学では完全に否定されています。
脳機能は、神経細胞の数と比例するわけではありません。
そうではなく、神経同士のシナプス結合の数と比例するのです。
神経は、神経同士でネットワークを構成していますが、その接合部を「シナプス」と言います。
1つの神経細胞は、約2000ものシナプス結合によって、他の神経細胞と結合しています。
このシナプス結合の数は、脳を鍛えて続けることによって、40代でも、50代でも増やすことができます。
中年になっても、シナプス結合の数を増やすことによって、「記憶力」を高めることも可能です。
一方で、何もしないと、どんどん減っていきます。
何もしないと、加齢とともに脳細胞は失われ、脳は老化し、記憶力の減退が進みます。
しかし、脳を上手に使うことによって、シナプス結合の数を増やすことで、脳の老化を阻止し、きおくりょくを高め、いつまでも脳をイキイキとした状態で活動させることができます。
脳が活性化すれば、「もの忘れ」「ど忘れ」えをしにくくなり、その結果として、バリバリ仕事をし続けることができるのです。
ご年配の方でも、話をすると考えが「若い」方がたまにですがいます。介護の仕事をして痛感しました。「なぜ?」と思ったら、話を聞くとやはり若いうちから、たくさんの経験をしていたようです。私たちは「安全・安心」の日々が当たり前になっていますが、社会保障などを考えると、今後は「安全・安心」とはいきません。何かに「臆せずチャレンジ」することは、経験と脳を若く保つ方法としてもっとも有効です。「臆せずチャレンジ」です、やりたいことがあったら、想うことがあったら、即行動です。
↓ 参考書籍
コメント