「思いつく」力を高める

心理・思考・時間


【制限を利用する】

「必要は発明の母」の言葉もあるように、斬新な発明は必要とする人がいなければ生まれません。

新しい発明や工夫とは、大なり小なり不便さや不自由さから生まれるのです。

2001年、世界でもっとも貧しい国のひとつであるアフリカのマラウイが干ばつに襲われ、国中が飢饉に陥りました。

絶望的な状況に大人たちが手をこまねくか、当時14歳だったウィリアム・カムクワンバは、何とかして水を得る方法はないかと考えた末にオリジナルの風車づくりに着手。

自転車の部品やプラスチック板といった廃材だけを組み合わせて風力発電機をつくり、見事ポンプで地下水をくみ上げることに成功しました。

限界ギリギリの状況が少年のなかに斬新な発想を育み、多くの人間を救ったわけです。

制限が創造性を育むことは、実際の研究でも証明されています。

トレド大学が行った実験では、生後18~30ヶ月の幼児36人をふたつのグループに分けました。

・4個のオモチャしかない部屋で遊ぶグループ

・16個のオモチャがある部屋で遊ぶグループ

その後、子どもたちの行動にどのように違いが出るかを観察したところ、グループにははっきりと違いが確認されました。

4個のオモチャだけで遊んだ子どもたちは集中力が2倍になり、ひとつのオモチャをいろんな方法で遊んでいたのです。

つまり、オモチャが少ない環境のほうが、子どもたちの創造性が上がったわけです。

これは、勉強についても同じで、いろんな参考書に手を出すよりは、厳選した数冊の参考書を繰り返し解いたほうが確実に学力は上がります。

これも制限の力なのでしょう。

【不足を思い浮かべるだけでも創造性は上がる】

大人を対象にした実験もご紹介します。

一部の学生たちに「お金や物がない環境で育つとはどういうことか?」というテーマでエッセイを書くように指示しました。

その後、エッセイを書かなかった学生たちも含めて全員の創造性をテストで計測すると、エッセイを書いた学生は、何もしなかった学生よりもよいアイデアを出す確率が22%ほど高くなっていたそうです。

つまり、現実的な制限がない場合でも、「何かが足りない」というイメージを頭に浮かべただけで、人間の創造性は上がることになります。

この結果について研究チームは、「豊富なリソースは私たちの創造性を低下させる可能性があり、アイデアは足し算では生まれず、煮詰まったときにあえてリソースを減らしたほうが良い」と指摘しています。

予算や時間が豊富にある状況は一見よさそうに思えますが、実際には逆効果になってしまう可能性があるわけです。

「豊富なリソース」が私たちの創造性を妨げるのは、潤沢な予算や時間が「言い訳」の原因になってしまうからです。

時間や情報が無限にあると、たいていの人は「もっとテストを重ねたほうがいいのでは・・・」や「もっとデータを集めたほうがいいのでは・・・」などと考え始め、やがて新しいアイデアを思いつく喜びよりも、失敗の恐怖のほうが大きくなっていきます。

このような心理状態では頭が凝り固まってしまい、自由な発想などできるはずがありません。

ところが、ここでリソースがない時は、「もう一度検討いてもいいが、もはや時間もお金もない」といった気持ちが生まれるため、自分への言い訳はできなくなります。

この気持ちが失敗の恐怖を乗り越える心理に変わり、新しいアイデアを生み出すモチベーションに繋がっていくわけです。

【何かが足りない感覚を意図的につくってみる】

もうひとつ大事なのは、リソースの少なさが私たちに「ゼロベース思考」を促してくれます。

十分な時間と情報があると、どれだけ有能な人でも、つい「過去の勝ちパターンをまた実践すればいいか・・・」と思ってしまうものです。

リソースが豊富にあるせいで、別のアイデアなど生み出さなくても「なんとかなるだろう」と考えてしまうのです。

しかし、リソースが限られていた場合は、過去の成功パターンを再利用できなくなるため、新たな勝利の方程式をゼロから考えるしか他に手はありません。

この切迫感が新しいアイデアを生む起爆剤になるわけです。

といっても、「豊富なリソース」のデメリットを防ぐために、本当に予算を削ってみたり、他人とのつながりを断つ必要はありません。

先の研究にもあったとおり、「何かが足りない」という感覚をつくり出すだけでも、あなたのクリエイティビティは高まるからです。

具体的には、一時的に資料を半分に減らした状態で企画を考えてみたり、ネットがない環境で考えごとをしてみたりと、計画的に「リソース不足の感覚」をつくり出してみましょう。

なんなら、アイデアを出す前に「もし、いまあるお金や情報や人脈がゼロだったらどうする?」と考えて見てもOKです。

実際のところ、意図的に「リソース不足の感覚」を使っている経営者も少なくありません。

Apple社を立ち上げたスティーブ・ジョブズは、初めてマッキントッシュ開発を指揮したときにデザインチームを独立した建物に隔離し、不当に短い納期で複雑な仕事を割り当てたことで有名です。

たとえ時間とお金に余裕があったとしても、あえてリソース不足の状態をつくり出してモチベーションを高めたのです。

このように、限られたツールやイメージをつくり出せば、それだけでもあなたのクリエイティビティは高まります。

【クリエイティブなアイデアの20%は無関係な作業から生まれる】

相対性理論を生み出した天才アインシュタインは、「直感」を大事にすることで偉大な業績を残した人物として知られています。

彼が常に心掛けていたのは、「これは成功しそうだな・・・」といった感覚がわいたら、深く考えずに取り組んでみるというポイントでした。

頭のなかでいろいろと悩むのではなく、無意識が「行けそうだ」とささやきかけてきたらとりあえず飛びついてみて、そこから徹底的に論理的な検証を進めていったのです。

この姿勢について、アインシュタインは「直感は嘘をつかない。あふれた情報や人の言うことにとらわれると、内なる声が聞こえてこない」

物理学者の言葉とは思えない発言ですが、無意識の働きを大事にしたことで、アインシュタインが光量子仮説や特殊相対性理論といった偉大な成果を生み出したのです。

実際のところ、近年の化学は、よい「ひらめき」は意識のはざまにこそ浮かび上がるという事実を明らかにしています。

一例として、カルフォルニア大学がおもしろい研究をしています。

これは45人の物理学者と53人の小説家やジャーナリストを対象にしたもので、研究チームは、毎日ランダムなタイミングで全員にメールを送り、「何かいいアイデアを思いつきましたか?」と質問を重ねました。

研究チームが主に調べたのは、「いいアイデアが浮かんだときに何をしていたか?」と「そのアイデアはどのように浮かんだのか?」という2つのポイントでした。

斬新な発想が生まれやすい条件には、何らかの共通性があるのかどうかをチェックしたわけです。

実験期間は2週間で、被験者から届いた大量の回答を集めたところ、大きく2つの事実がわかりました。

・クリエイティブなアイデアの20%は、仕事とは関係ないことをしていたときに生まれていた。

・仕事とは関係ないことをしている最中に生まれたアイデアのほうが、「アハ体験」として感じられやすい。

被験者の大半は、領収書の整理中や昼寝をしたあとなど、目の前の問題とは関係がない作業をしているときほど、なんらかのいいアイデアを思いつく傾向がありました。

そんなときに思いついたアイデアほど、質が高くて斬新な発想である可能性も高かったのです。

よく「シャワーやトイレの最中にいい考えが浮かんだ」と言いますが、この逸話は科学的にも間違いない事実で、仕事とは関係ないときに無意識がふと返してきた答えほど、解決が難しい問題から抜け出すのに役立つケースが多いのです。

【あえて「何も考えない」で創造性が高まる】

無意識のパワーが役立つのは、学者やアーティストだけではありません。

どんな人でも、無意識の恩恵にあずかることは可能です。

有名な事例として、ラドバウド大学が「無意識思考効果」のおもしろさについて調べた研究をご紹介します。

「無意識思考効果」とは「自分でも気づかないうちに脳はいろいろと考えごとをしてくれている」という考え方のことです。

いくら悩んでも解決できなかった問題が、一晩明けたら嘘のように解けてしまったことはないでしょうか?

これは、あなたが寝ている間に「無意識思考効果」が働き、脳が問題に取り組んでくれたことが原因で発生します。

この実験では、研究チームはまず何人かのアルバイト経験者を集め、それぞれの働きぶりをチェックしました。

続いて、アルバイトの能力が高い人と低い人を振り分けたうえで、全員のプロフィールをつくります。

さらに、今度はまた別の被験者をラボに呼び、先ほど作成したアルバイト経験者たちのプロフィールを読ませて「どの人物が有能だと思うか?」を考えて当てるように指示。

その際、2つのグループに分けています。

・いろいろ考え抜いてから判断してもらうグループ。

・まったく関係ないゲームをやったあとで判断してもらうグループ。

その結果は、後者のグループの勝利でした。

あれこれ考えながら「誰が優秀か?」を判断するよりも、「あえて何も考えない時間」をつくったグループのほうが、格段によい選択をしたのです。

研究チームは、この現象について「無関係なゲームをやることで無意識思考効果が働きだし、意識が考えるよりも精度の高い答えを導きだしたのだろう」と推測しています。

ぱっと見は無意味そうな時間を過ごしているように思えても、実は裏で脳が働いてくれているわけです。

【頭を使わないゲームをすることで、発想力を引き出す】

「無意識思考効果」を実証した例としては、もうひとつ、こちらは被験者に「ベストな不動産を選ぶためにはどの仲介業者を選ぶべきか?」という問題を投げかけたあとで、全体を3つのグループに分けました。

・ソリティアのようなシンプルなゲームで遊んでから判断する。

・数独のような複雑なゲームで遊んでから判断する。

・いろいろ考え抜いて判断する。

その後、全グループの判断を計測したところ、トップは「シンプルなゲームで遊んだグループ」で正答率は75%でした。

続いては、「複雑なゲームで遊んだグループ」で55%、最後に「考えてから判断したグループ」は40%でした。

やはり下手にいろいろ考えずに、単純な作業をしたほうが逆に思考が深まっていくという結果が出ています。

「無意識思考効果」により、なぜよいアイデアがだるのかはまだ明確になっていませんが、多くの研究者は次のようなメカニズムを想定しています。

・あえて考えるのをやめて無意識にゆだねる。

・無意識下に普段は出てこないような情報が浮かぶ。

・新たな情報が判断材料に加わり、よいアイデアがでやすくなる。

気を張らず力を抜くと、逆に見逃していた情報が頭に浮かびやすくなる。

よい発想が欲しいのにありがちなアイデアしか浮かばないときは、ジェンガやトランプの七並べのようなシンプルなゲームで遊んでみてください。

いったん問題が無意識に棚上げされ、思いもよらなかった情報が浮かびやすくなるはずです。

↓ 参考書籍

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